<1256>「一歩が、正午に上手く染みていくのでなければ」

 この袋の先端が地面を捉へていくらかのそぶりを順に順に伝えてゆくのとともに、、

 向うの方でも顔を上げていくらかの記憶をひらく、

 そして次の一歩、、

 落とした一歩、

 あれは無限に鳴っているようで、、

 いつもいくらかの風がそれを含む、、

 いつも身体が立ち上がってくる

 いったいそのまま応答して、

 触れている、

 

 小さな、浮かんだ声が、

 激しい音の下に敷かれたままで、

 なおも鳴っている、

 なおまだ声としての姿を保っている、

 それはつま先にさわぐ、

 歩くもの、それはリズムに万全の信頼を置き、あとはばらばらで、

 あとはただ縦横にほどけて、

 からからと鳴っている、

 

 日常で、日常に、無限に繰り返されて、懐かしさをあらわせえないもの、

 歩行が懐かしい なぞとついに考えないこと、

 しかし歩くことは いつまでも懐かしさのままでいるので、

 わたしはそこでばらばらになってよく聴いていなければならない、、

 一歩がそのまま地面に染み出だすようにせんばならん、

 それで、どこもかにも身体を置いてきて、、

 あるいはそこでもつれほどけたものが風に乗って線になり、、

 ひとしく静かになっている横で、

 ただ 空洞たるものはぼうぼうと吹かれる、

 ぼうぼうと呼応する、

 ひとの歩という歩を上手く、それからまるく、身体のなかにえんえと鳴らせはしないだろうか、、

 よくその身体のなかに入っていって、

 鳴らしはしないだろうか、

 

 あたしはそうして正午に何の感興もなく独話を拾いに行く、

 ただ歩は進む、

 ものがかたるそばを静かに通ってゆく、、

 遠い声がする、、

 山を見ているひとりの視線と、踏み出した右足がぶつかり、

 ただ一本の線があらわれてそこから螺旋の身ぶりを披露しよう、

 螺旋は空気を変え、

 時日を交え、、

 あなたの水に触れる、

 揺らいだ水面に私の小さな独話が映るだろう、

 ほんのひとつの踊り、、

 ひとつの長い記憶、、

 線がほどけて、

 またひとりの歩行を待っている。