<908>「色の通り」

 おうい、ことが招んでいる・・・。たくみな意識のなかへ現実が腫れて出る、いでる、腫れはよく視界の外へまで膨らんでゆく。

 わたし、を編み、遥か彼方へ、遠方へよく声の通り、人(ひと)の隙間に細い糸の通り、色(イロ)を問わず、色(イロ)をまたず、まだその不分明な姿にするすると通(かよ)ってゆくとき、人(ひと)の喜びのなかにただのわたしが生えていた、のだ。

 いくらも生々しく、いくらも空洞の、その果てしない姿勢に、私(わたし)はただの裸(ラ)、マ、はだかで向かい合っている。ゆるやかに見えようゆるやかに漂う幼さに静かに挨拶をしていたものの、声、は、わたしへ向いた。例えばわたしには歴史があった。

 あれは彼方、よく裂いた。露出に限りがない。露出はとっくに普段の時間をこえてしまっていた。そのあとで、私(わたし)はよく、時間にこだわっていた。

 つまり、色(イロ)、であることを許された数々の時間のなかに、さて何が初めに溶け出してゆくのかを、ぼんやりと考えていったのだ、とひとりの別の姿で証言するは、休みの日に。

 ただ風のなかへ居(イ)、揺らいでいた。ただ風のなかへ居(オ)る、そして、揺らぎは私(わたし)の名自体となり微笑んでいた。こころもち、ぼゥとする、ノ、火の静けさ、あたりまえの熱にひとりうなずき、たくみな意識の先でゆっくりと振れている・・・。

 みだ、レ、みだ、の息づかいが、肌の予感なしに触れるとき、しばし無音、しばしホッと呼気の漏れたあと、わたしはまだらな膨らみを目にす。

 遠くでたれかの鐘が鳴っている・・・。触れるものの名を知っている・・・。