<935>「昨日より軽く」

 空っ風のあたる・・・。わたしはさむしい、鳥の声の踊る、めまえにまた風が吹きつける。

 ひとはそこの角(かど)に触れる。もたれかかり、意図は分からないまま・・・。

 過ぎる、過ぎる、過ぎる。切り貼りされた混乱についてゆき、色(イロ)は惑う。

 わたしの背に触れて、順に駆けていく。誰のために軽くなっていたのか。わたしはわたしの歩みを知らない。

 短い音(おと)。さらに連なり、意識へ運ぶこと、リズムへ運ぶこと、いちいちのまじわり、素直に姿勢ののびてゆく、新たにまた顔を身につける。

 そはひそかなもののこと。そはにぎやかな関係性のなかの静けさ。そはふたつの振舞い。

 遠のく声へひとの浮き、ひとの沈むをあらわし、等しい眼で全体をねめつける鳥の、おおらかな羽のなかに棲み、しじゅう頭のなかに響くことを得(ウ)、は・・・。

  ひとのかたちはかるいということ

  かるさは決して負の要素ではないこと

など。

 ものが持ち、ものはおののき、ひとは肌という肌を振るっている。わたしが鳴るなら、それがそのまま染みてゆくよう。わたしが鳴るなら、鳴るなりにそのままでそこへ棲むよう・・・。

 ひとは軽々とはねて落ちる。わたしはそのあっけなさをそのまま吸っている。あとを任せて走り去った姿を見る・・・。