<879>「夜の影のなかで」

 小さな船に乗って。私が酔(エ)いの、鐘をのむとき、

  ゴゥゥゥゥゥン・・・

  ゴゥゥゥゥゥン・・・

 途方もない。私は酔(エ)いだ。私はエイだとするれば。ひとつことの音、その先へ、次第々々に大きな凝りとなって自己を轟かせる、その大空間の誇りを、静かに噛み締めたものの声として、私の声音がゆっくりと回転して変化してゆくところを見て、

  あれ、大仰な、大仰な手合い

  あれ、大仰な、大仰な手合い

 と、揺すぶりはまるで灯(ともしび)の嬉しさを(ともしび自身の)、知っているように黙して流れた。

 「あなたには、不可能な出合いが待っている」

 それを祝う。その、不可能の只中に、いつまでも居(お)られることを祝う。それは身(ミ)‐ひとこと‐印(しるし)であることを可能にする。私は夜の影のなかで大きな声を上げて笑った。

 突風の見開きに、いとど溢れる、それは、ためらい? 微小な粒のせめぎ合いのゥ、穴、目、それから、目、でないものの穴ぼこへ、たれかしらがひどく、あるいは大きく、静かに座っている。

 笑みを含み、しかし、その表面は、笑みでないことが重要なのである。その場所で、私は出会う。なにに? 時間以前に? あるいは、全てが振るわれた、ただの初めに?

 彼方にいくつものざわめきを見、触れ、見、触れ、音楽には糸がつく。緊張性のなかでたくましい、ひとつの糸に触れている・・・。うたいのそぶりにあらためてよる。