<914>「無容器の眺めへ」

 照る。ものと、照る。とこは、こころと絵、渡す。

 あなたは海側の表情を持った。ただ懐かしくなった。

 わたしは灼けた砂を振舞った。呼吸音が人(ひと)の背に向かって伸びた。

 湯気の伝うる、それは仕草、に手を触れて、知らず、微笑みがまともさと離れがたくなる。

 扇風機が、おそらくどこかで記憶違いをしていて、めまえを小さくかき混ぜていた。手紙はその時点に声を持った。やや緑色になって笑っていた。

 舟は各々が音声記号になり、ただの地面を不安視する。表情の上を闇雲に走り回り、やがてただそこへ道を見るようになる。立ち尽くしている人(ひと)へ、時間をここで何かへ返さざるを得なかったものへ、やみがたい敬意を払いながら・・・。

 あの、了解の瞬間へ、再び戻ってみても、霧は晴れない。ただ、ビリビリに破れた紙のそのなかへ、静かに顔をすべらせてゆき、曖昧だが確かに次の道筋が示されていることを知る。わたしは整理をする訳(わけ)ではなかった。

 暗さは、酔(よ)いと、同じ顔をしていた。ただ酔(よ)いに被さって遠くを見つめていると、過去のからい匂いが絡みついてくる。そのとき場所を持たずただその場に浮いているしかなかった。

 勢いは、身体(からだ)のなかで場所を取らず、むしろ数ある場所をひたすらに忘れさせた。これほどただの容れ物であったこともないだろう、が、夢はあまり見なかった。ただからんとした一場面のために人(ひと)は、あるいは振舞いを少なくしていた・・・。