靴磨き:靴を磨きましょう。
旦那:何で?
靴磨き:どうということもありませんが。
旦那:あそう。いくら?
靴磨き:へへ。
旦那:へへじゃないんだよ。いくらなの?
靴磨き:いくらでも、まァ、どうぞ。
旦那:何だそりゃ。まァいいや。
靴磨き:靴を買うでしょう。するとまァ、磨きますわな。
旦那:誰だってそうだろう。
靴磨き:いえ、そんなこともございません。
旦那:磨かなくてもそれはそれさ。
靴磨き:さあ、そこでございます。靴を磨かないとする、と、あなたには私が見えないんでございます。
旦那:そんなことはない、見えるさ。
靴磨き:へへ。そうですかネ。
旦那:何だよ、ハッキリしないね。
靴磨き:あたしには靴が見えないんでございます。
旦那:何かい、目が見えないのかい?
靴磨き:いえ目は見えるんでして、靴が見えないだけのことなんで。
旦那:靴が見えないならどうして靴磨きが出来る?
靴磨き:へへ。いやだなァ、からかっちゃいけませんよ。
旦那:からかっちゃいないさ。変なことを言うのはお前さんじゃないか。
靴磨き:そうですか?
旦那:そうさ。
靴磨き:さ、よく光りましたよ。するとあなた、これを普段から履いてなさる?
旦那:履いてなさるって・・・そうさ、何がおかしい?
靴磨き:おかしいだなんてとんでもございアせい。大層立派でございますよ。
旦那:変な奴だな。さ、いくらだい?
靴磨き:靴を磨けば分かります。へへ。
旦那:困るなァ、そんなことばかり言ってちゃ。さあ、じゃちょうどこれだけ置いとくよ。
靴磨き:どうも。またどうぞよろしく。へへ・・・。
~~~~~
旦那:おい、俺の靴知らないかい?
靴磨き:何ですその俺の靴ってのは?
旦那:靴がどこかに行ったと思うんだがなあ・・・。
靴磨き:どこかに行ったと思うって、今そこに履いているのはどうなんですか?
旦那:これが靴に見えるか?
靴磨き:さあ。
旦那:さあなんて言ってちゃ困るじゃないか。
靴磨き:磨きましょうか?
旦那:何を言い出すんだ。何を磨くって言うんだい。
靴磨き:靴を磨けば分かります。へへ。こりゃ。どうも。
旦那:邪魔したね。じゃまた。
靴磨き:どうも。またどうぞよろしく。へへ・・・。
~~~~~
靴磨き:おや? 何ですそのかたちは。
旦那:俺も靴磨きになったよ。
靴磨き:おや? へへ。そうですか、ならまァどうぞ。
旦那:俺には靴が見えるぞ。
靴磨き:そいつぁどうも。
旦那:ちょっとあなたのを磨いてみようかな。
靴磨き:面白い人ですね。靴が好きなんですか?
旦那:靴を磨けば分かるよ。
靴磨き:おや? へへ。どうも。難しいことを言いますね。
旦那:よく履き込んでますね。徒歩ですか?
靴磨き:そうでしょうねえ。靴でしょう。
旦那:あなたサイズが違いませんか。
靴磨き:どうしてどうして、ピッタリです。
旦那:それは良かった。では靴をどうぞ。
靴磨き:何ですあなた、靴なんて履いているんですか?
旦那:いやですねえ、靴は履きませんよ。
靴磨き:それは良かった。じゃあひとつ磨いてみましょうか?
旦那:いえそしたらば、探してこなければなりません。
靴磨き:変なことを言いますね。探さなくたっていいじゃありませんか。そこにありますよ。
旦那:そこにありますってあなた、見えるんですか?
靴磨き:さあ。
旦那:さあなんて言ってもらっちゃ困りますよ。ああどうしよう・・・。
靴磨き:何を慌てているんです? さあこちらへどうぞ。
旦那:こちらへどうぞったって、困りましたねえ・・・。
靴磨き:どうしてです?
旦那:磨いてもらおうったって、無い靴はしょうがないじゃありませんか。
靴磨き:・・・すると、あなた靴が見えないんですか?
旦那:ええ、そうですけど・・・。
靴磨き:へへ。それはそうでしょうねえ。だってあなたは靴磨きなんですから・・・。