<833>「無をどり」

 真昼のからんとした顔。日常の小さなヘコみによくぞ紛れ込んでいる。そしてア音、イ音。倍々の行方のなかで意味。

  貝の中でザギザギする・・・。

 頭のなかは効果人(びと)たる無音の成就。無音の湯加減。無音室生成法売買。倍加する人(びと)。ひと、ぴと、子どもの頃・・・。

 カラで呉れないもう今日び、大団円の裾からひらりと輝いた、あれは飴。あれは手品師。夕暮れどきひとりのリヤカー押し人(びと)。感動に振るえまざまざと見せるは、絵味。なつかしいタッチ。あァ慕情や、慕情。

 回転体のなか、無香の空間で何やら話し声のする・・・。

  おどれうしろ染め覚悟して振り返られよ

  おどれうしろ染め覚悟して振り返られよ

 夕(ゆふ)どきのナ音、ネ音。飴色たる烈情風景。石焼き芋の線は空想的延長を望み、大レースのあとのひとつぶ汗。食べ散らかしたものの、なにやかやフェードアウト。そこにひとりの息。

  ほゥ・・・(ほゥ・・・)。

 揺れた。緊張線の端(はし)に、夜。紛れもない朝声(アサゴエ)も、一枚剥がされたまま。素知らぬ風で、猫の声。猫一匹の冷静。そして飴色の目玉。かく紛れらる、そこに太くて、曖昧な、以後の明かり。あれは確か、他人(ひと)の置き換える、なおかつ、気づかれない程度、腕まくりする、迂回的態度。