<639>「一人の男は揺れる<2>」

 つまり、区切り方の問題だ。あの男は存在する。ちょうど、家の場所、というか区切りを、2メートルほど横にずらしてしまうみたいな。あなたが思っていたそれは、家ではありませんよ、などと言ってやる。そうして壁の外になる、壁の外にいる。あはは、見えなくなった。生きているのだか、死んでいるのだか、そんなことはもはや、どうでもいいのだ。あの男は今や、外にいる。

(・・・し遅れましたわたくし・・・)

(・・・にあるというのだからどうも・・・)

(・・・はっ。ぶはっはっは・・・あたたこりゃなんとも・・・)

染み、うしうしと、壁に何かが染み入る。あなたねえこの染みなど、壁の色がいくらか違う気がしやしませんか。いやなことを言うねえ気のせいだよ、などと。

(・・・ているからいけないなんてまあそりゃあなた・・・)

(・・・と思ったんですか、区切りなどというものがね)

区切りなどというものが、問題になると、思ったのですかね、ぶはっ、ぶはっ、ぶはっ、ぶはっはっはっは!

(なるほど。見えている、その範囲が全てだったり、外にいると決めてしまえば、もうものの数から溢れて、問題にしなくてよくなると、思ったりして、面白い方々ですね、ぶはっ。呼吸だということが、すなわち空っぽであって、ひとつの小さな染みであったりすることが、あなた方には分からなかったようですね、ぶはっ。じゃあお茶でも一杯、頂けますかね?)

けわしい、けわしい流れだ。