<610>「虚ろな穴はあなたを待っていて」

 虚と実の、優劣をつけているようじゃ、私はまだまだ人間だ。おいそこの、そこのそこの、確かであるとされるもののなかに、なんという、またなんという、空っぽの出来事があると思う?

 あれ、

 あれ、

 あれ、

いつもそこを覗いているのにみんなして一緒になって覗いているのに、お前はこんな穴なんかなければ良かったと言うのかな、さみしいな。さみしいが、

「俺は確かなものに逃げ込みたいんだよ」

という音がぼわあ・・・ぼわわわんと響いて、ほらそこの、私も私も私もが、首を傾げているのだろう。

 空っぽだから、どうでもないやら、空っぽだから、どうなることもないとか、何を、一体何を言っているんでしょうほらとにかく言っているのでございましょう。ただ、ただね、君がそこらにうっかりしっかりあくことを、確かなことども待ってるよ。確かなことこそ待ってるよ。確かな人こそ待ってるよ。