<579>「人形の舞台」

 どこで聞き、どうして訪ねたのかを今、問われていることが分かるのだが、それは私が答えることではない、という顔をいつまでもしていると、困惑の色が浮かぶ、瞳に映る、こちらへも移って移ってまた移り、さて誰が話し出したらいいのか、また、そのとき何を話せば一番良いのかがまるで分からなくなってしまった。私もこの場の一員であるはずだが、何故だか一言も発するにあたらないと思い始めて、沈黙という沈黙が頑固な重みになってゆくのを感じている。テーブルの上の人形が軽やかに回りはじめる。そこには風も意思も必要でなかった。

「ああなるほど、人形が回っていますね」

とだけ言う。とだけは言うのか、という顔がこちらへ向けられた。とだけ言う場面ではなかったのだろうことが察せられ、すみません、やはり、よく分からないというより仕方がないところがあるのです、と言ってみせた。

「何を見せているのだ」

はあまあ、ここに入ってきたところからの一連の振舞い、ちょっとした答えの停滞、などなどとは思いますが、とそれだけとりあえず答える。それだけとりあえずは答えるのだな、という顔に、何かしらの納得の跡はない。