<5>「彼(5)」

 不遜、あまりにも不遜で傲慢なので、褒められることにもけなされることにも我慢ならない。誰もが羨む好機を見送って放り投げておいて、後悔の念も起こさないと来ている(激しく後悔している様子があれば、まだ取っ組みようがあった)。こういう人物が他人を苛立たせずにいる訳にはいかない。そういう訳で、絵は人々の心を逆撫でした。緑色が多用されている。

 不安が、内側を向く行為につきものであるのはおかしくないか。内側を向けるように作られてはいる。しかし、内側を覗き込むことに専心すると、だんだんと中心がずれていく。どうしてそのようにしたのだろう。だから大抵は皆、あまり見ないようにする。そういうことにかかずらうんじゃないよと教える。そんなこと言われたって、関心がこちらにばかりあるのだどうしようもない。関心はどうにもならない。

 絵も含め、為したはずの経験を記号として留めるだけではどこか不十分なことに苛々する。言葉を発するごとに、深い刻印がどこかに残らないものか。そうしたら刻印だらけで辺りが真っ黒に塗りつぶされてしまう。それはごめんだ。しかしそんなことを心配する間もなく、サラサラと物事は流れていく。