部屋の空気がムッとする。左半分を網戸にして換気を試みようと窓に近づくと、誰かが窓の外にしゃがみこんでいるのが見えた。不思議と恐怖は感じられず、むしろ進んで窓を開け、その人の横で同じようにしゃがみこんでみようとした。
「おじさん」
「えっ?」
「今あそこを歩いているおじさん、ちょっとつまずくよ」
その人の言うとおり、程なくして、小道を歩いていたおじさんがつまずくのが見えた。
「あの子どもたち」
「はい」
「5人のうち2人がくしゃみするよ」
「あっ」
可愛らしいくしゃみが、くしゅんくしゅんと重なり合って小さく響いた。
「ひとつ」
「え?」
「ひとつ大きな風が通るよ」
間もなく、びゅうっと唸りを上げて、風が足早にベランダの前を過ぎ去って行った。
「あなたは・・・」
「でたらめだよ」
「・・・」
でたらめじゃないんでしょう、問いかけるとその人はスッと立ち上がり、ひょいっと目の前の柵を飛び越えた。
「あっ!」
と下を見て、転がっているはずのその人を探すと、ここの真下から大分離れた木の陰で、もう既に身体を休めていた。