<1068>「だらり」

 だらり・・・

 だらり・・・ だらり・・・

 (わたしのなかのなにかだらりとした感情が大方川でも作っている・・・)

 ぷかり ぷかり

 (わたしのなかのだらりとしたなにか・・・)

 (名前さえのないもの・・・)

 (川がわたしの記憶であった試しはない)

 だらり だら だらり・・・

 と、

 流れ流れ口ずさみ流れ流れてゆくのがあきらかで、

 いまひとたび

 だらりと見えたわたしの手に

 ひとりひとつの記憶当てはめてゆく

 だらり

 (そうだ)

 だらりだら

 (近所の公園にはひとつの川があって)

 (子は川を、川なかの生物が好きであるという常識のもと、無興味で川を眺めていたこと)

 だらりとした・・・

 (それよりか、友だちがさっきまでの野球とは違う種類の集中を、目に帯びてゆくことがおもしろく、、)

 だらりだらりとだらだらだらり

 (もう行こうぜ、と言って、さっきまでの興味はどこへやらに散ってしまい皆がよそへ駆け出したあと)

 だらり・・・

 (ようやっと、川もまあ捨てたものではないなどという感想が芽生えだし)

 だら、、

 (一番その場を名残惜しそうにアトにするのがあたしになっていたりするおかしさだったりをおもいだす)

 だらりとした、、

 ひとは ひとは皆なぜか影になり

 (それも鋭く)

 影のままで笑ってい、

 まためのはしに浮かび影になり

 (それも素早く)

 影 だらり

 影だらだ だらだらり

 夕(ゆう)な、 夕(ゆう)な、 朝な、

 そとはまた、

 なんでもない あけらかん

 あからさまにあけらかんだ、

 だ だ だらりと

 (わたしは外の景色でものも言葉も溶けてしまうのをただに眺めるものである)

 あるいは 惜しさ

 その全て あわただしく影になり

 わたしは 惜しさ

 惜しさの先に ただだらりとぶらさがりしまいには溶けてしまう、、

 溶けようがどうだろうが (だらり)

 溶けようがどうなろうが (だらだらり)

 またまさぐってまさぐってやまない・・・

<1067>「肌色を撫ぜる」

 ある日訪ね方を変えた、、

 敏感に肌色を撫ぜて、、

 無応答の意味をつかまえそこねて、、

 また肌色を撫ぜる、、

 一体この身振りは染(し)むことを得たのだろか、

 あるいは伝え 伝え 伝え、想うことの難しさ、

 そこいらへんの草々の匂い絡まり立ちのぼり

 戻らなくなった声に沿うている、、

 捉えがたく止みがたい一陣の香りになって立ちのぼる、

 純粋に呼吸してしまう・・・

 あなたの話を見つめている、、

 ふたつに分かれたままで 止まる ともなく 止まる

 あくまで静かな渦を作る、、

 その眺め 眺め 眺め、、

 あなたになにのあたらしさもないまま、

 そはひらいて、

 そは流れて・・・

 あつまった渦の軽やかに、なにのにおいもなく、鮮やかに飛び、

 ふっと笑んでみる、

 心地よく滴り落ちるものが冷たいかどうかそれは知らない

<1066>「未生の、声のなかに」

 未生のもののかすかなささやきに、たったひとつの指で静かに同化してゆく

  (あらゆる人々の気持ちは分からないかもしれない

  ただ

  (あらゆる状態の気持ちのことは分かる、、

 わたしがものを考えるスケールより遥かに大きく、、

 わたしが頭で考えているリズムより遥かに重厚に、

 その未生はここに当然のさまでささってしまい、

 ただ戸惑っているか、ぐったりしていることしか出来ない、

 一体なにが祝福で、なにが祝福でないのかが分からない、、

 言葉があからさまにあちこちへ散っていくのを感じる、

 それで、どうやらぼぉとするよりほかに態度の取りようがない、、

 わたしは営みに限定することにした、、

 全てそこに閉じたあと、外側へはどこに拡がってもいいようにした、、

 数少ない声のなかにもわたしのものが混じる、、

 混じり 混じり ただおそろしく柔和な未生を想う、

 未生よ、わたしを際限なく試せ、、

 その無際限の態度、ただの爆発的な声にわたしを浸そう、、

 あるいは濡れたままでゆこう、、

 研究者の目で、、不可思議なものの前に歩み出でた姿で、、また、静かにあなたを誘おう、、

<1065>「思考の色を変えること」

 へちかんさんの見事な散り方

 へちかんさんの見事な散り方を見て何を言う、、

 何を言うのか、、

 どこまでも膨れてゆくものの姿は懐かしく、親しく、、

 しまってしまうことを前提に生きられるものなのか、

 どうか、

 そこらへんはちゃんと考えても分からないところだけど、

 ちゃんと考えたら分かるはず、という考えのそとにただの呼吸があって、

 時間があって、

 ついのしまいをしているという話を流れきいて、、

 それはただの片付けとは違うだろうと、、

 何か思考の色(イロ)自体を大幅に変えてしまうようなことをせぬと

 そのままは無理だろうと、、

 誰か訪ねるものあればそれも良し、、

 ないならまたそれで良し、と、、

 さて、どこで終わりにするつもりでいごいていたのかと、

 ある程度膨らますだけ膨らましてゆくことが大事なのはよく分かる、、

 で、どこで膨らまし切り、と判断するのか、、

 その判断、決断が出来ずにずるずるとゆくのが大方なのではないか、

 だからへちかんさんは見事だという話になるのだろうけれど、、

 そはもう嫌気が差す、ということなのか、嫌気が差しても膨らますことはとめられないのが大方なのだろうが、

 どうか、

 死ぬことを考慮に入れながら生きるのは難しい、

 が、

 生きることに死を挟まずにいるのも難しい、

 が、どうか、

 見事である、というところえ、あまり重きを置くものかどうか、という話もある、、

 おのれのやってきたことにまみれまみれて、無残な姿を見せるのが仕事なら、それを見るのも仕事という気がする、、

 綺麗さっぱりと、とはゆかないという現実を持ちつ見つめつつ、綺麗さっぱりと、見事に、という状況を探りつつ、なのか、、

 普段死ぬというのを考慮に入れているのかどうか、入れていない気がする、、

 それはなにか別のこと、という気がする、

 ついのしまいを始める、というのはその生のなかに別のものを容れる、ということでもある、、

 それは言葉で言うより、というより、言葉で言っているうちから難しいことである気がする、、

 わたしは死にたくない、というのも変な感じがする、苦しくてもがき生に執着するのは、死にたくないという感覚とはまた別のもののような気がする、、

 だからたくさんもがいていても、その上で死ぬのはなんら変なことではないというか、別の次元での話のようなおもいがある、、

 常日頃に死ぬということを本格的に容れてしまうというのはどんな気持ちなのだろうか、

 昨日今日とは思えぬものを昨日今日と感じながら居(イ)るとは・・・

<1064>「道にさわぎ」

 色褪せる儚い一行よ、

 通ろう、、道幅は狭い、、

 疲れて誰もが鳴き止んだところへ、

 通ろうどの道、道幅は狭い、

 道にさわぎ 日(ヒ)にさわぎ、

 さてさて歩みがなんになるのやら、、

 なににもならないもののために、今歩こう、、

 わたしは歩行を夢と取り違えるものではない、

 ささやかな香り、かぐわしい振舞い、、

 わたしは理想と匂いを取り違えるものではない、、

 あきらかに、今宵は溜め息から生まれるだろう、

 溜め息、、それも長い夜をひとりで集めているもの・・・

 あじきない肌に、記憶の粒が散って、、

 もうこれ以上なにものも加えることが出来ない、

 もうこれ以上なにものもたたえることが出来ない、、

 とそっと打ち明ける、、

 その仕草は夜(よる)に見えた、

 一秒ごと 一秒ごとに 曖昧になってゆけよあなた、

 あなたに夜(ヨル)が着られるように、

 あなたに夜(ヨル)が飾られるように、、

 ほっと無感情に澄んで、その

 一歩 一歩 を 見つめてゆく、、

 あたしの夜(よ)の仕草、、

 その香りはただどこかでまどろんでいる・・・

<1063>「知らないひとよ」

 知らないひと、、ひとり、知らないひとよ、、

 わたしにふうあいを、

 わたしにふうあいを伝えてくれ、、

 知らないひとよ、闊歩してゆけ、

 階段をのぼり切ったところで、振り返り、うつむき、静かに呟く、知らないひとよ、、

 同時代人の前で、さびしく笑んでいる、わたしの知らないひとよ、

 当然の輝きを持ってそこを曲がれ、、

 見えなくなるまで、とうに見えなくなるまであなたの呟く声よ続け、

 わたしは知らないひとになる、、

 いくらでも輝かしい知らないひとになって、

 無口で、優しく笑んで、階段をのぼってゆく、、

 その先でまた振り返るだろう、

 うつむくだろう笑むだろう、、

 問答はややもすると続く、、

 あなたの輝きの秘密にいつまでも祝福なれ、

 ひそみ、あらはれて、満開にはじけれ、

 交わせ 交わせ とんだ冗長なる時間も、

 なにのために交わされているのか分からない言葉も、

 ここに混ぜて、

 試みに笑んでみてくれ、

 それはさわやかで美しいあなたの後ろ姿を想う・・・

<1062>「淡い鐘の中へ」

 続けざまに聴こえるわたしには聞こえる

 なべてあるその他(タ)、わたしには聞こえる、、

 鐘の音(ね)はいつか衰えている、

 わたしを挟む

 わたしを弱い波でかなしく挟み込んでいる、、

 全景がやや色(イロ)を捨てて悲しくなる、、

 さけび 走る、、

 いくらかずつ繋いで 繋いで、

 音(ね)のなかに巻いて 巻いて、、

 ふさぎ込んだ表情から 静かに閉じられた手のひらから、

 わけもなくぼぅぼぅと煙ののぼるとき、、

 ひとは鐘の音(おと)をまた意識し始める、、

 ささやかながらもそれは色み、、

 飾られたあわい、

 染(し)む 染(し)む 音(おと)、、

 さそい、、

 胸のなかに丸くなってゆくひろがってゆく、、

 そっと言(こと)は音(おと)は鐘にすべらせ、、

 肌はあわい、、

 また撫づ風もあわい、、

 さそい、

 あまりに静かなのでその場に立ったままでいる、、

 風がする