<933>「私は印象に名前をつけられなかった」

 あの人。それは朝と呼べない。

 名指すと、裸体は浮かぶ。それで過去と呼べない。

 眼差しは、いまだ線にならず。声は聞こえない。

 しびれる。これが、ひっくり返されたあとの、あっけない静けさだろうか・・・。

 わたしは、吐き出されたものになる。吐き出した日の、鈍重なリズムは、渦巻いている、渦巻いている。

 晴れやかな、膨張、沸騰する、目をつぶる、・・・気のついたとき、渦は見えない。

 暗い幕に、後ろ、遮られ、一歩を適当に、激しい出鱈目のなか、置かねばならぬなど・・・。

 場面。に音(おと)を通す。あっけない響きが、空気を、小気味よく、小気味よく抜けていく。

 あなたは名前を持ってもう一度この場へひらいた。僅かな微笑みを結っていま一度この場へひらいた。

 全てのきっかけがあなたのひといきのなかにあり、新たな惑溺のなかにあらゆる呼気の混じっていった・・・。

 わたしは忘れない。忘れないとは決めなかったことをいつまでも忘れない。ひとはこころなし優雅に揺れている。ひとつの眠りを指摘して・・・いつもの場所へかえる。

 窓に、ほの明かりの差す、淀んでいく夕べ、ただひとりのまどろみが全てのひとの絵のなかで揺れている。

 夜をほの磨き、ひと粒ひと粒ごと揃う。只今の跳躍だけになり、あとは去っている、あとは去っている・・・。

 いま、わたしを捉えると、ゆっくりと疑問にかたまって、ぼんやりとしたけはいの満ちてきて、、触れ得(ウ)る・・・。