<913>「手と手と身」

 遠のきとひらめき。近くで花を弾(はじ)く、と、魅惑。困惑のなかに棲むは人のゥ、あたらしい姿。その姿、触覚に何をか訴え、ひとはつぶさに見る、と、めだまはひょいと踊る。

 わたしが触れたもの。触れたものににおうこと、おそろしさ、交わす言(こと)、揺れるときと移り・・・。

 み。さかしらな手足。ゆくはゆく、ひとの傾げに手を振り、ひたすらに地面をつかむ、は、震動する。

 ものの揺らぎ。揺らいでは、マ、に移り、マ、に潜み、とびらのもの音(おと)に、全ての思考を委ねる。あっけらかんと、シ、ただの空間へ、あるいは、ものの数秒の戸惑いへ、ひとりで目を向け、こころなしか跳ねている粒や粒や・・・。

 そのひとつひとつがわたしにはりついて、剥がれない、トゥ、笑顔。ゆるめた葉に静かに身(ミ)を乗せ、浮かぶは手のひら。あたたかさと涙。戸はうなずく。

 わたしはだだ広い空間で訳(わけ)もなく晴れている。雨水(うすい)の予感を含んで、覚えず飲み込んでいる。

 手と手と手。身(ミ)の垂らした声や、ほっとハく息の彼方へ、時(とき)は次第々々に近づいてゆく。無音風景の、感づかれない速さに、面食らっては振れる・・・。

 淀むと、疾駆。ひとは、おのれのタネが、風に乗らないとも限らない、とし、眩しそうに上へ目をやる。ひとはただのひとふきにおのれを乗せる。ゆきさきは見えていない・・・。