<850>「らんのはやさ」

 いわば突然に、いわば曖昧に、あらたしく湧き出てきたもの、そのひとつぶ性は、枠内で全力を駆けている。

 私は湧き難い、剝落するものの思想を見ていた。語りは、悲観論ではない。

 私をリズミカルに先取るもの。疾走性と、その対(つい)の、空白地帯の哄笑的巨大さ。哄笑の、長たらしい揺れ、歴史の遅さ、折り合いの巧みさ。

 あくび‐轟音‐ジ‐開(ひら)く‐微々たるもの。剝がれ落つの(おどろおどろしい)、おどろおどろしい言(こと)。例えば、一語一語、その、振り払う身振り、素(ソ)振り、伝達線、それに寝そべる目(メ、メ、メ・・・)。

 少しのあいだ、ノ、凝集。一片の動的な語らい。その、非‐範囲性、ヤ、全範囲性。無記憶、のち、全物語を抱えて、音もなく舞台上で夢を観るとき・・・。

 懐疑性の手拍子。または、リプレイに次ぐリプレイ。待てないものを含み、沈黙はまた沈黙として含み、別々の速さごと行(ユ)く。

 浮浪に額(ひたい)、浮浪になめらかさ、いまだにふいの、その訪問的な音声に、一度なり笑み、一度なり微笑。

 ある夕暮れ、何をか思い立ち、傍目には気づかれない速さで動く、そのことで、途方もない距離を、しかも惑いのなかに獲得したのだった。その、象徴的なリズムが、あくびであり、笑みであり、ひりついた歩行の進ませ方であった。

 急な転がし、淀み、また卵(ラン)が、哄笑に優るその速さを獲得する・・・平たい・・・熱い・・・。