<179>「凝視の」

 よく見なさい、というのはそうすればきっと何かが得られるからではない。何かの為ではない。ただ見るということ。残らず全部を見つめるということ。では何故そうするのか。何故というものはないのだ。どういうことだろう。言われただけでは分からないが、ひとりに還ってやってみれば、それなりに、今の時点なりに分かる。ひどい振舞いも、良い行いも、自他の別なく見る。自然に口は閉じるだろう。それだけ努めていれば、よく憶える。ただ残るというよりも、もっと確かな強さで。そうやって強く刻まれたものはよく蘇り、再び口は閉じるだろう。見つめすぎて一切の行動が不可能になる地点から、ジャンプアップしてまた何らかの行動が可能になるその一連を。何かを掴んでいるのに、何を掴んだのかさえ気がつかないくらいに、働きでなくなる働きのその目を。