怖い視線というのは、実はあまり大したことがないのかもしれない。いや、確かに怖いのだが、危機として非常に分かりやすいから、対処の仕方も分かりやすい。それより、何だろうあの不気味な睨みは。ぶるぶるという慄えが背中から足にかけてやけにゆっくりと走り、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。まるで対処の分からない、嫌な夢のような色みの目、その柔軟な直線。そこから外れれば避けられるという訳でもないのだ。振り向く前から、こちらに振り向くのが分かった。何か危害を加えられるかどうかという予想だったり想像だったりは、働いていない。そんなことは関係が無い。ただただ、気味が悪い。避けよう、危ないという意識すら殺がれてしまう。