「お久しぶり」
おどけたつもりで丁寧な挨拶を施すと、その人は、なにか私の顔に焦点が合わせられないというような表情をしていた。
ほら、あのときの、あすこに行ったときは、あんなことがありましたね、などと話を並べると、その人は、
「ああ・・・」
と、実に懐かしそうな顔をした。だが視線は、私の胴体を透かした遥か先にあるようだった。
「去って行った人なのにね、どうもこちらを向いているというのは変なものね」
そう言われて、私は言葉の意味を摑んだような摑んでいないような心持ちになったが、ひょいっと背を向けてもう一度、
「お久しぶり」
と言った。すると、その人の懐かしさが一層深くなるのがよく分かった。