「ヤダ! 買ってくれないとヤダヤダ! ぶわぁ~ん!」
微笑ましいとは思いながら、あまりにも甲高いその泣き声に、やむなく苦笑してしまう。母親は、構わずグイグイとその子を引っ張っていった。
その光景を見て、
「あらら、残念だったねえ・・・」
とは思ったが、
「あったあった、私にもあんな頃」
というような、子どもに対する共感は何故か湧いてこなかった。
欲しいものが買ってもらえなくて、ビャービャーと泣いたことなどあっただろうか。いや、買ってほしくて泣き喚くとしたならば、それは相当に幼い頃のことだろうから、もしかしたら私がただ憶えていないだけなのかもしれないが、泣いてまで何かが欲しいことをアピールした記憶が無い。
そりゃあ私だって、
「あれが欲しいなあ」
というようなお願いを、まだ小さいときにしたことぐらいはあるが、
「ダメよ、誕生日でもないのに」
と言われたら、渋々と、しかし迅速に引き下がっていたような気がする。
今となっては年齢が年齢だけに、とても高価な買い物でもない限り、親にねだらずとも勝手に買うようになったが、もし仮に今、
「誕生日でもないときに、嗜好品なんか買っちゃダメよ」
と誰かに禁止されたとしても、禁止されたならされたなりに、他の楽しみを上手く見つけていくだろうという予感みたいなものがある。
元々、そこまで物欲が強くないのだろう。地面に寝転んで、泣きながら駄々をこねた、というような類の記憶がひとつもないのだから。