悩む場所

 根本:「おやおや表層さん、いらっしゃい。いやあ近頃のあなたの活躍は素晴らしいものがありますなあ。でも、あんまり無理なさらないように。」

 表層:「いえいえ何を仰います。私の活動は根本さんあってのことですから。それで、幸い身体の方は大丈夫なのですが、ちと他のことで悩みがありまして・・・。」

 根本:「おーはいはい、何でしょう?」

 表層:「いやあ実は・・・、私が今やりたくてやっていることは、本当はそこまでやりたいことではないんじゃないか、ということで悩んでいるんです。」

 根本:「ほう・・・。」

 表層:「そこで、今こうやって根本さんのところまで下りてきて、今私がやりたくてやっている、と思っていることは、根本さんの方でも確かにそうかなということを伺いに来たんです。」

 根本:「なるほど。好きでやっているという気持ちが、深いところ、つまり根本のところから来ているものかを確かめに来たと。」

 表層:「はい。」

 根本:「うん、その悩み自体は良くあるものですし、特別変な悩み事をしているとは言えませんが、それでもちと、悩む場所を間違えているとは言えますかな。」

 表層:「悩む場所?」

 根本:「はい。つまり、これが本当にやりたいかどうかを考えるときに、私の領域で考えるのは間違っているということです。表層さんの領域で、やりたいと思っていればそれで熱量としては充分なのです。」

 表層:「え、何故でしょう?」

 根本:「根本、つまりは私の領域でやれること、やっていること、またそれしかやれないことというのは、生きて後死ぬことなのです。私の世界にあるのは地続きの生と死だけです。それ以外の、あれがやりたい、これがやりたいなどということは表層さん、あなたが主人となって決定すればそれで良いのです。それを、生きることと死ぬことしか扱っていない私の領域で、やりたいのかやりたくないのかなどと考え出せば、きっと混乱してしまうでしょう。表層さんがやりたいと考えていればそれが全てなのです。」

 表層:「私のところでやりたいと思っていれば、それが全て・・・。ああ、そんなことは考えてみたこともありませんでした。根本さんのところであれをやりたいとかこれをやりたいとかを考える必要はないのですね。ありがとうございます。何とか主人としてやっていけそうな気がしてきました。」

 根本:「はいはい、また何かあったらいつでも訪ねてきてください。くれぐれも無理はなさらないように・・・。」