「気が利かねえなお前」 「あれ・・・」

 世間で言うところの、気の利く人間ではないという自覚はあるのだが、

「お前、気が利かねえな」

と言われる度に、一応すいませんと、口では言いながら一方で、

「あれ、おかしいな・・・」

という気持ちをいつも抱いてしまうのだった。

 何故と言うに、感覚的には、自分は相手に、

「ものすごく気を使っている」

ように感じていたからだ。

 ということは要するに、気を使い過ぎてちょうど良い塩梅を保つことが出来ず、結果的に気が利かないということになっていたのだろうと思う。

 誰か他の人と一緒の空間にいるとき、特に、あまり親しくない人と一緒にいるとき、私は頭の中で、無数の問いを立てている。

「今、私は何をしたらいいのだろうか」

「これをされたら嬉しいだろうか」

「これをされるのは嫌だろうか」

「相手は今何を望んでいるのだろうか」

等々。そして、問いを立てては潰し、ということを繰り返し続けた結果、その実全く相手の為に動いていなかったり、動き出しが遅くなってしまったりということがよくある。

 だから、逆説的になるが、気を利かせるためには、

「相手にあまり気を使い過ぎない」

という態度が必要になってくるのだと思う。適度に気を使わないようにした方が、逆に気を利かせられるのだ。