断りの妙

 よく物語等で見られる、

「立場が下の人物が、逆らえない立場にある人物の無茶な要求に対して、物腰は柔らかく保ったまま静かに釘を刺して断りを入れる」  

場面が好きなのだが、あの場面には断り方の技術が凝縮されているように思う。

 まず、こういった場面において断りを入れる人物は、相手の立場が上ということを考えて、相手を立てるということを忘れていない。しかも、その立て方が過剰にならないように上手く調整もしている。

 そして、あまりの失礼には忘れずにしっかりと、しかし丁寧な言葉遣いで釘を刺している。それから、その断り口上を全体として眺めたとき、言葉の並びがとても美しい。

 これをやられたら、いかに立場が上の人物であっても、

「うう・・・」

と唸って、その後は黙って退かざるを得ないだろう。

 比して私が、何かの要求に対して断りを入れるときは、

「察してくれよ」

と言わんばかりのヘラヘラ笑いを浮かべて誤魔化すか、よく分からない理由を挙げて曖昧にしてしまうかだ。それでも断るという目的は果たせているのだから別に良いではないかと思われるかもしれないが、出来れば、相手が、

「う~ん、見事」

と唸るほどの断り口上を連ねたい。それに、その方が断られる相手も気持ちが良いだろう。