『なんか、夏になるとクーラーつけるからか、電気代が高くなるのよねえ・・・やだわあ・・・』
高校生の時分の夏休み、あまりの暑さに、クーラーをつけて居間でゴロゴロと過ごしていたら、夕方ごろに帰宅した親が、私に話しかけるではなく、しかしはっきりと私に聞こえるように、そう言った。
おそらく、自分は暑い中ずっと外にいたのに、ひとりだけ家で涼んでいてズルいという思いから出た、軽いイヤミのようなものだったのだろう。
だから私は、
「良いじゃねえか、こんなに暑いんだからクーラーつけても。あなただって、帰ってきたとき涼しい方が嬉しいでしょ?」
と、そこで返して済ませばよかったのだが、そうは済まさないのが私のイヤなところである。
そのイヤミを聞かされて以降、私は今に至るまで、クーラーをつけるためにリモコンへ手を伸ばしたことは一度もない(消すためにリモコンを使うことはあるが)。家族が、
「もういい加減暑いから、クーラーつけようよ」
と言ってきたときにだけ、
「どうぞ」
と笑顔で返すだけである。決して自分からはクーラーをつけに行かないようになった。何故か。それはイヤミを言われた瞬間に、
「そんなイヤミを言われる筋合いは無いし、文句を言われるのも癪だから、クーラーは絶対自分からはつけに行かないようにしよう」
という処理を、誰にも言わずに、自分の中だけで行ったためである。つまり、文句をつける余地を、完全に相手から奪うことで問題を解決しようとしたのだ。
この処理は、今でも自分の中だけでひっそりと、しかし根強く続けられているのだが、我ながら、
「なんて自分という奴は意地が悪いし、可愛げがないのだろう」
とは思う。別に親だって、クーラーを絶対つけるなよという脅しを込めてイヤミを言った訳ではなく、ちょっとイヤミのひとつも言ってみたかっただけのことだと思うのだ。それだったら私も、イヤミのひとつを、ユーモアでも交えて返せればそれで良かったのではないだろうかとは思う。
だが、私にはそれは出来ない。何しろ、底知れず意地が悪いからだ。