「謝らせてくれ」と迫ってしまったら、相手方は「良いよ」と返すより仕方ない

 もう、今となっては取り返しのつかないひどい事を、過去、言ってしまったあるいは、やってしまったという反省から、

「ひどい事を言って(やって)しまった人に謝りたい」

という気持ちが起こってくることがあります。しかし、恐ろしいことに、

「謝りたい」

という思いが湧いてきた源泉を辿ってみると、それは、相手の人がそれによって少しでも、

「謝ってもらえて良かった」

という気持ちになってもらえたら良いなあというようなところから出てきているものではなく、私が過去、ひどい事をやってしまったという事実から、早く解放されたいというところから出てきているものなのでした。つまり、私の、

「謝りたい」

という思いは、どこまでもエゴイスティックなものだったのです。謝って楽になりたいと思っていたのです。

 また、たとい本心から相手のことを思い、

「謝りたい」

と思っていたとして、実際に相手の所へ行き、

「謝らせてくれ」

といって謝るのだとしても、それはそれで、相当にエゴイスティックな行為になると思います。

 何故なら、

「ごめん」

と言われたときに、本当はまだ許していなかったとしても、よほど強固な意志を持っている人でなければ、

「許さない」

とは正直に言えず、

「良いよ」

と言わざるを得ないと思うからです。これでは、思ってもいないのに、

「良いよ」

と言うことを半強制しているようなものです。

 では、もう取り返しのつかないひどい事をしてしまっている場合、どう振舞うのが良いのか。私の考えでは、しんどいかもしれませんが、

「確かにひどいことをやった」

という事実を、なるべく忘れずに自分の中に持っておくより他に取るべき態度はないように思います。相手はもう思いだすのも嫌かもしれないし、積極的に忘れようとしているかもしれないから、無理やりに謝りに行って、

「良いよ」

と半ば強制的に言わすのではなく、とにかく自分の中でだけで、しっかりとそのことを覚えておくこと、それが唯一の態度だというような気がしています。

 勿論、もし相手が、

「謝ってくれよ」

と言ってきた場合には、その時にきちんと謝れば良いと思います。