<1194>「数多の線が暮れる」

 位置していた。

 夕方にあり、 一番端っこにあった、

 これ以上先へ行くと、 もう熱とは言えないのかもしれない、

 位置していた。

 数多の線が暮れる、

 眺めていて飽くことがない、

 動きが隠れてゆくのかもしれない、

 誰が陰になるのかもしれない、

 あたしは歩行の端くれだ。

 熱からこぼれてしまうのだろうか、

 どの時間にも黙々とゆくと決めたのだろうか、、

 身体から煙が吹き出していて、

 何やら香ばしい匂いがしていて、

 全景がしばし、忘れられる。

 熱の端くれとして歓声を上げていた、

 歓声がわざわざひとりひとりの背すじを撫で上げる時間を飽くこともなく眺めていた、

 時間はあんまり綺麗で 見ることに適さないままでいる、、

 

 このまま燃焼に燃焼を重ねて、

 身体が軽くなってしまい、

 黒くなった手のひら、、

 静かな地面、

 大きな呼吸は、

 どこに位置するのだろう、、

 私は何故だろう、

 誰を位置しているのだろう、

 熱の一番端っこで、

 顔の役割をして、

 口の役割をして、、

 ただの表情を音楽的になるまで繰り返し熱してゆくのかもしれない、

 長い火を、

 長い長い明かりを、

 繰り返し続けてこんな表情を迎えることが出来ているのかも分からない。

 黙しているものがあなたのそばで一語となるのを待っているのかもしらない。

 熱は私にも言葉を分けてくれることが出来た。

 私は端っこの方で踊ろうと思う、

 地面の形を時々変えてみたいと思う、

 はっ はっ

 またいずれか、

 またいくつか、

 ひんやりとしたものを、、

 手の中にうけて 口の中に入れて、

 それで ひとりで 目の覚める、

 身体がもう軽く、 まるで炭の匂いしかさせなくなったあと、

 全身で描き、 全身で感慨を言い、

 割れよう、

 また端になり、 また端っこを目指そう、

 時間は既に鳴っている、

 空気は漏れたまま、

 新しく沸いた姿のまま、端へ、

<1193>「無名の隙間に」

 葉陰が透明に向かって挨拶するのを、私は偶然に見ていた。

 ただ静かに、緊張に応えるようにしていた、

 応えようとしていた、、

 あいにく私が似合いの言葉を持ち合わせていないこと、

 いくらか風が過ぎてしまった、

 この時間はどこかへ溜まっていくのだろうか、

 あいにく私が声を持ち合わせていないこと、、

 ここはあんまり夢のように綺麗に晴れている、

 穏やかな冷気がある、

 穏やかなかわきがある、

 この快さはどこで過ごしていくのだろうか、

 私が空間を探すように、空間も声を探しているのだろうか、

 隙間を肌で緩やかに感じ取っているのだろうか、

 

 あるいはひとりの鳴き声が透明に映っている、

 見当違いの方向へ、顔を向けてみている、

 流れる、

 やや無名の時間をふたりで過ごしていた、

 かすかに無名の、

 ここかしこに潰れた匂いがこぼれて、

 響きがいつまでも残って、

 あれから私は生まれたのだろうか、

 

 わずかに青いと感じられるものから、

 静かに距離を取って、

 身振りを次々に映す、、

 一日は適当なリズムを持っている、

 一日は完全にかわいている、

 ひとつひとつの歩行が丁寧に燃えている、

 けぶっている、かわいている、

 静かに溶けた陰のように、

 眩んだ陽のなかの意識のように、

 それは私に貼りついたまま、真剣にかわいている、

 

 道を静かにさわっていて、

 揺れて、揺れて、

 あたたまっていて、

 ひとりでも見えて、

 陰に過去が聞こえて、

 微笑んで、

 暮れる、、

 あれから私は生まれたのだろうか、

 微妙な表情に僅かに指を添えていたのだろうか、

 無名の隙間がいつも喉を探している、

 手があからさまにのびている、

 そこで私は生まれたのかもしれない、

 ひとつの眼に驚いたままでいるのかもしれない、

 ある華やかさが、

 他意もなくひらめいていた

 眼の理由はなにも明かされることはなかった、

 わたしのまえで風があらゆる道を持ち、

 そわそわとしながら、

 肝心な呼吸と合わさり嬉しいという気持ちで居た、

<1192>「煙の快哉」

 私にはこんなぼんやりした煙が刺さっているんだ、

 誰が拵え上げたんだ、、

 目が回っていやがる、

 身体が辺りへこぼれたがりやがる、、

 どうだって言うんだ、

 素晴らしく吸い込んでるじゃあないのか、

 私もこんな狂った香りのなかに踊ってみたい、

 よろめきを歌っていたい、

 煙の快哉が聞こえる場所で、

 辺り一面のほうけた空気の真ん‐マ‐なかで、

 長い時間に、

 あるいは別の名を、

 新しく紛れ込んでるじゃあないか、

 私がどこから鳴っているか分からないぐらいで、

 おい、そこの、

 かぐわしい、

 響きに紛れ込んでる、

 響きに紛れ込んでいるのは誰かしら?

 よく目覚めているのは、

 長く声が通うのは、、

 お前の緊張したおもてに、

 全てが煙って、、

 

 果たして香りのなかに映っているのはどうかなあ?

 こうやって少し、浮かべるように吐いて、

 潜って、、

 緊張した夢の平らな線に浮かんで、

 辺りをぼんやり過ぎたらどうだろう?

 あれは煙だったのかな、

 どうかな、

 この暖気を、

 薄闇のなかにつぶれた言葉を、

 たった一秒咥え直したのだから、、

 私はまたこの曖昧な日を再開するんだった、

 曖昧な気配を、

 浮かれ過ぎて退屈しかおもてにならない日々を、

 その、

 退屈が高じた水色の靴底で、

 静かに眠ったまま踏みつけて、

 私は本当に嬉しくて、このまま、時間と一緒に無表情になれる、

 無表情にだってなれる、、

 辺り一面の煙の騒ぎのなかで、

 身体を底にして・・・

 

 私にはこんなぼんやりした煙が刺さっているんだ、

 知らん振りで、

 いかがわしい匂いを吸って、

 長い時間焼かれて、

 とんでもない通路を来たんだ、

 誰かがゆっくりとさわれば、

 そしてまた日が過ぎれば、

 止まない、

 新しい温度は止まない、

 ただの吐いた空気、

 ただの身体のなか、

<1191>「時間はひとりでに照れて」

 見慣れない眺めであると思った。

 どうやらあなたもそうでしょう。

 どこに来ているんでしょう、

 あなた、ここへ置いとくにしても、記憶が多すぎるとそうは思いませんか、

 時間がわたしたちを含みすぎているとは、

 日のように流れているとは思いませんか、、

 時々こうしてひらいにくるとね、

 あんまり突拍子もなくって驚いてしまうことがありますよ、

 ところで何処から来たんです?

 現実から次々に沸いているでしょう?

 不思議だという感慨を持ちませんか、

 一体どうして身振りをするんでしょうね、

 

 次の作法、次の作法へ移っていく人を、

 じっと見詰めていると、

 時間の流れはひとりでに照れてしまって、

 現実をしばらく放擲してしまった、

 半ば嘘の空間にいる、

 これくらいの凝視を、まるで一度も想像していなかったみたいにして、

 どこかへ浮いている、

 おおい、静かにかむされてから長くなりますね、

 やや曖昧な動作で鐘は鳴る、、

 びりびりと鳴る袋のそばで絵的な身振りをする、

 少し濃くなってしまった、

 わたしは自分の濃度に少しだけ照れていた、

 また、そうしてよく息を吐いた、

 途方もなく広い空間に出て、冗談だろうという気持ちを起こしたまま、ただに見詰めるのはやめていた。

 

 あたしが一切なんですからね、

 どこまでもあたしの範囲なんです、、

 ホラ、そこ、あたしの外で本を開いてちゃいけませんよ、、

 さあ呼吸なさい、

 何をそんなにうつむくことがあるんでしょう、

 照りましょうか、

 あんまり静かじゃありませんか、

 運動が大き過ぎてもうあたしはこれを音だとは言えないと思いますけれど、

 ひとりが照れましょうか、

 こんなに強くちゃしょうがないけれども、

 

 しかしただ へそ

 へそに散ずる鈍い光が気になった、

 団欒の不愉快がまた気になっていた、、

 あなた照れているんでしょう、わはははは、と、数限りない声の漏るなかに、

 ひとりさわやかに無目的で駆け出していたいと考えた、

 が、駆け出していた、

 螺髪が無数の鐘となり、次々に鳴り出していて、

 途方もない時間にひとり投げ出さているにはただその場で駆けている必要があると思ったのだ、

 ややうつむき、

 瞳は一切を据えている、

 ここにただのぼやけた揺れだけがある、、

<1190>「生きている人は点になる」

 面に、一日が、

 曖昧に映り、過ぎました。

 平素から、この行いが、

 全くただにのびるひとつの道を、

 分かりにくいものに変えています。

 

 ひとが沢山過ぎるには、

 あまりにもこの道は単純ではないでしょうか、

 少し足りなくはありませんか、

 ひょっとして、わたしが持っているイメージでは十分ではないのかもしれません、

 

 最初の点が、点として、

 途方もなく滲みはじめたときに、

 何かむずがゆく揺れだすのを意識しました、

 つまり、この点はいずれどこまでも届く、と漠然と感じる、と同時に、そんな尊大さ、同一視するという傲慢さに恥じらいを覚え始めるのです、

 

 時計は時計で、回っていました。

 眺めているときだけに、特別に動くものとして、

 聴いているときだけに、特別に音を立てるものとしての姿勢を崩さずに、

 

 紙きれは放り出されました、

 それは信頼のためでも、無関心のためでもなく、

 ちょっと無邪気に、探りを入れるべく、

 そうしてみる必要があると感じられたからです。

 男は普通の挨拶を寄越しました、

 あれ、このことは案外一日二日は残ってしまうかもしれないと僅かに考えたりもするのです、

 

 動揺は、こみにかしおの中でもっとも愉快で、

 もっとも緊張し、

 もっともこの場所を分からなくさせるものがあります、

 果たして、何かが通じると信じたのでしょうか、、

 花壇のなかに植わっているかたがたが、急にばらばらに散ずるように思えました、

 

 各々が、各々の家を目指しています、

 一体全体おのが家の外にいて、誰に弛緩してみせたらよいのでしょう、

 足音が、呼吸のリズムが、

 首を左右に巡らす動作が、

 適度な温度を保ったまま、

 秘密の穴にそそがれてゆくのです、

 待人は歓喜に震えるでしょう。

 

 今こうして各地に移動し、

 線を引っぱり、

 面を作り出したように見えても、

 生きている人はいつでも点になるのです、

 道はひとつでよかったのでした、

 点がまたひとりで揺れていてもよいのでした、

 あす名前が変わっても動揺は過去へ過去へと次々に流れてゆきます。

 任意の場所に、なんのてらいもなく、

 ためらいもなく、

 小さな印を置いて、

 みるみるうちに大きくなっているのでした、

<1189>「青く照る身振り」

 踏んでいってよ

 剥がれて、、

 そのさきで、顔からまず剥がれて

 お前みたいな膨らみのなかに顔を浸けていたい

 穏当な、青い声の、

 まばたきの、

 真摯な膨らみに、

 

 あるときにまさらに敷かれたこのヤで、

 剥がれるままでいるとせ、ものともせで、

 尋常、さあらでそのままの温度で踏んでいっておくれよ

 芯にかけておくから

 このままでかけておくから

 あたしの青く照る身振りを見てもらいたい、

 やや淡い香りのする姿をそのままに、舐めてもらいたい、、

 浸した顔の夜の中の香りはこのきびしい憂いを越えている

 どこからこれだけのものを集めて敷いたのだろう

 また踏もう、踏もうと身体を振るけれども、

 その方角に一度と限らずに積もっているのですか、

 

 いやだ

 あたしが出会うものといえば紛れのない身体なのだもの、

 どう咥えたらいい

 どう転んでいたらいいだろうか、

 尋常な肢体を映している、、

 ありとあらゆる風景から剥がれてしまって、

 身体はひとりでまるまっている、

 集まっていたという感覚から、

 ひとり時間を離れ、、

 見事なまでに立ち上がっている、

 

 そうしてひととおりの挨拶を済ましたものだから、

 ただ押し黙って飽くまでも相手にして眺めているよりしょうのないけれども、

 これは何だ、

 おい誰がこんな匂いがすると言った、

 ぞっとするほど、大仰な香りを備えて、

 何処へ行く、

 お前ずっと前からここにいたのじゃないね、

 来たところを言えるね?

 さあ聴いているから、

 

 だのに今は鈍く光るものの前にいました、

 このときお前さんは驚いて口が割れたでしょう?

 驚かなくてもいい、驚かなくていい、

 このときに初めて聞いたんですからね、

 わたしには聞こえているから大丈夫ですよ、

 安心してひろがりなさいと言ったんだ、

 憶えてますか?

 お前さんはひょっとすると知らないかも分からないよ、

 でも見ただろうと思う、

 何かは分からないままでやっぱり見たろうと思うよ、

 そのときからまたどろどろに溶けてしまったんだ、

 あ、それで、このことは忘れてくれるといいな、とそう思った、

 でも静かに身体をかためたままで、

 じっと見ているのは それは知っている風だったね、

<1188>「記憶より長くなる」

 おお、そうです。

 眩しいんですね、、

 ここへ渡る時はずっと、

 ここへ乱れる時はずっと、手が見えにくいんです、

 尋常な視線が引っかかっているんです、、

 うつろな声となれと、

 ものはもので遠くまで映れと、

 あれで等しく語りかけるでしょう?

 不思議な気持ちがいたしました、、

 よく見えていますよ、

 しかしオマエさんはどうも、

 何故長い時間に、

 ここまでの身体を、

 分からないことですネ、

 現象をただうつろに追えと、

 ただロウが垂れるのを長く長く見ておれば、

 そこにわずかな線が、

 しかし、いくつか、いくつか連なって、

 その奥、うち、笑みを映して、

 わたしは訳も分からずに拡大しました、

 身体が打つのに任せて、

 長い時間に任せて、、

 

 おお、おお、

 そうですね、

 こんな、よく照るなかえ、ようこそ、

 あなたが入りました、

 無数の線を抜けて、

 その表情の跡がわたしにも見え始めていました、

 ともっていました、

 声が空気を、探り探り打ちました、

 わたしは目をアけていましたよ、

 その長い呼吸がきこえるでしょう、

 遠くの方に、僅かに探ったままでしょう、

 ほら、ほら、

 よく照っているんです、

 全身より長くなりなさい、

 記憶より、嘘より、、

 尋常の速さで、

 コツコツと打つ音が聴こえるでしょう?

 ただの運動が、

 誰かしら、身体が、

 全身が浮かんでいるでしょう、

 

 まだらに生きていて、

 ひとつの身振りが濃くなり、

 現象は柔らかくそこに留まっていました。

 今や、わたしも踊り出しています、

 行列をなしてゆきます、

 未明の姿へ、

 でなければ、はばたくふりで、

 全身を、

 揺り、揺り、

 見事に褪せた動きを含んでゆきます・・・