<895>「一重の踊り」

 遠のきと、戻し。速度を、あるいは速度が上がってゆく必要があり、私は網膜の忙しなさに少しく踊る。

 うぶな声が届き、身体(からだ)を騒がせ、また新たに道と名付ける行為、に、ほどほどの熱、と、夕暮れ、そはまさに迫ってゆくこと。全身の了解。全身のとめどない。

 遥か遠方に似た人(ひと)が見え隠れし、考えるより前に足のゥ、動く、動く、動く。

 そのじしんと紙一重の振舞いに、人(ひと)は姿、夜毎舞い、舞い、舞い。欠片を持つ姿、と、舞い、舞い、舞い。

 その、決心に、揺らり、揺らり、そこで夜の時間と、朝の時間をも、それぞれ抱えたままでゆくとする、ノ、そのとき、複雑な重量が突然めまえを行ったり、来たりする。

 どんと揺らご、鉄砲の、その訳(わけ)のない、意味よりも、ノ、重さ。表情が不自由になる。

 後(あと)へ、先へ、まだたとえは豆粒のなかに宿るのみ、であるがゆえに、そは、膨らまなければならない。子どもの通(かよ)う、私はエネルギーの、全身のごった煮、ごった返し、踊るような熱に翻弄されているものの、ふくらんだ姿。

 私は一枚の紙板(かみいた)になる。メッセージが幾様(いくよう)にも動く場(バ)、柔らかな音声の通(かよ)う場(バ)、として・・・。

 かげをよく踏み、ヒ、をよく見出すと、季節、の姿が、私の表情をよく物語るようになる。限りない回転の、例えばただ立ち尽くすしかないような時間に、ひりついた舌の部分々々をあらわす、あらわにする。決してからかっているノ、でない。

 一杯の水のなかに全ての道の絵姿(えすがた)のある・・・。

<894>「ユコウユコウ」

 こよい、よい。治峯(じ・・・ぶ?)ン、の鼓動とうと、うと、していると、すさまじく響く、ノ・・・、声、と、人(ひと)。

 手、が、間近で光る。みつめられた穴へ、それはまた誘いへ、惑溺は惑溺として静かに通る。

 不鮮明、不十分の、ただの呼吸の回転として、あるいは、気まぐれに招待された私として、場(バ)を、

  触れにゆくもの

 へ、かえてしまう。余分さは当然かたちの眼を方々へ向ける。

 ただのアクション。それぞれで。また、しかし、安易に、結びつかないと思っているものへの掛け声は、果たしてどんなリズムを、触感を持つのだろう。

 なにがしかの、他人(ひと)の、ひとつぶへ、そのまま透くっと通(かよ)ってゆく、あるいは行方を問わず、わたしはかげか光かをゆわず(言・・・→結)。まだしも大きな熱日(ビ)として・・・。

 あれはとおせんぼ。かようにうたわれたとおせんぼ、の前の、ぽかんとした顔へ、人(ひと)に次ぐ人(ひと)が意味を見出しはじめる、その瞬間の音(おと)をきけたら、ともかくわたしは歓喜だと思える、いや、そのとき思うことからしばし離れる。

 細やかなステップにただうつらうつらと、目の裏に映らいでもよい移るともよいとひとたびの溶けだし・・・あなたが言葉とは何かという大きな真黒のカーテンのなかへうずもれるときの表情へ、ゆっくり、ゆっくりと近づいてゆく。

 きたないはだしのそのほっとしたメッセージに耳をあずけて、わき立つものの助けを借りても、借りなくともよいと話す、そこでこのただの液体はあわいへのゆ→こう(移行)をはじめる・・・。

<893>「振動の細かさ」

 こえのふくさと。こえのふるおとへ。よそをゥ見、彼はウんだ・・・。

 彼は私の新しさのなかへ陽気さで進む。

 陽気さは進む。陽気さは進む。

 あるいは、頭の連なりにふざけて似る、ト、道。私でなく、頭に似た道をゆく。そこには声、、は、数字のひとつとして現れる。

 ゆびの先に私を混ぜている。あるいはまぶされた未知のいち所作に、たがう眼(メ)、たがう匂い。

 ここへ掛け、ゆえに私、きりのない、あるいは霧、、の見えない場所へ、あれは踏み足、そこで足音、の、ふるまい。

 どうとあれ、それは彼方の出合い。無量にひょっこり顔を出すことの、どうしようもない笑みへ、また語らいへ・・・。

 (あなたがなになのかを知っていただろうか・・・)。

 それとなく咲くひとつの眼に、たがいの言葉を置いてゆく。眼は膨らんだ。眼は気温を通していた。

 幾度となく重なるもの、を、含んでただ真黒にして、みずからがなだらかな由(ヨシ)、を、うん、とする。

 ただが景色だ。ただが吐息だ。なに、汗はすぐ私を見つけて差し出している。風景のなんの気ないのどかさは、汗をなんと読むのだろう・・・。ただかわく前提のものとして?

 一ミリの微笑み。微笑みは一ミリのウ、みをただ味わっている。味わいが表情に先行している。樹陰にひとひらの気触(き・ぶ)れをする。あれを置いてゆく。あれを置いてかない。視線の意味の外に鳴る。

 おもてを向き、ただ振れることにする、いや、ただものおとの隙間に風側の振舞いであれることを知る。

<892>「別の名の激しさ」

 めまえで手やふるえ手やふるえ、わずかなイ・・・(イ、イ)、身振り。激しくひらくと、喉の透明な相槌。うつろはわたしの後ろへ控えていて、さらにここは、言(こと)は、とゥ、と、問う。

 ものも鮮やかな、ましてや、私のヒ、沈みまた、丁寧な熱と、にもかかわらず、のゥ歌。

 特殊に声をかいくぐり、私が目ん玉のゥ奔放なするどさを見るとき。未明、未明。

 あるいは別の名が鳴る。別の名が鳴るとき、喉がひとりでひっくり返っている。それは夜の一時(いちじ)のことだ。それは夜の一時(いちじ)のことだ。

 とくに事(こと)へ、私がひとと、よィ、こぼすト、すれば、それは関係の跳躍。誰かがいつの間にそこいらではねていた、とすれば、私のせめて色(イロ)だけからでも踊ってゆく。

 視線と、からかい半分で、その延長上、踊ろか踊ろかその変更で浮かれてイ、また、浮かれることの実感がそもないとき、に(ないときに・・・)、、綺麗な、真黒な穴がこちらをめがけている。こちらを求めている。しかし、それは不安定な勘違いかもしれない。それによってワクワクするとして、勘違い(でない)かもしれない・・・。

 綿(わた)や、弾みのなかにそれぞれで呼吸を揃えておくと、もしや今度は考えのなかに潜み、適当な音(おと)とパチ、パチと鳴るかもしれない。ひどい朝とおんなじ距離になって雄大な層の記憶と一致するのかもしれない・・・。

 行方を私が噛む。私は破裂した、その瞬間の衝撃としてしばらく街路に横たわる。ひとつひとつの彫り・・・が、別様な音(おと)を立てていて困惑からその前進は現れるのかもしれない。

 あるいはこの場に沿う、眺め方というものがないときに、からからとかわいた音(おと)を立てて回る名も現れない道具になるのかもしれない。

<891>「会話体の無時間」

 ふわりと浮いた。風のなかで手が湿っていた。

 私がところ絵、ひとつの会話体、まだしも騒音。

 それは、かき混ぜられた風音(ふうおん)の一呼吸一呼吸。

 私が現実の音(おと)に静かに耳を寄せ、なおも、風となる一連の回答以上のものを見出せないとき、素直に微笑む、深く吸う。私の域(イキ)、の、透明の在り方。そして、場所回転性の、記憶的延長。

 一本の線の上に私の歩行がからかいとして存在する。私は立場者(しゃ)に、憧れつつまた惑いで応答していた。

 いきの涙。私が正体不明のものとして溢れる時間のこと、そのサイズ、その気まぐれ、その、小さな手の動き・・・。

 立ち上がり、は、涙。私は声を、ある空間へとしばし譲っている。その先は凪と、音(おと)がほころぶ。

 かれた「ハ」と、その匂いの置き方で、私は、この呼吸の往復に、きみどり色の記憶を混ぜている。懐かしさが束の間、私のために輪郭になる。

 こトくトう・・・を、覗くと、その、問答無用の行進が、私の目には鮮やかだ。その鮮やかさに、まるで照れることのない、(それを)、なぜか、明日(あした)と呼びたい。

 名前は沸々となるなかへ真っすぐにおりてゆき、染み渡る。瞬間、挨拶にもならない挨拶を発(はっ)す。

 「お前はわたしのその先まで繋がっているのだ」

 と。あるいは、疑問がそのまま場(バ)になり、回転するためにここへ染み通(とお)ってゆくことは不可欠なのだとも、告げる。そこに嫌な仕草はない。訳(わけ)に首を傾げながら、なおも付き合っている。

 またのかたまりを、私と呼ぼうとする・・・と、粒は粒になる。

<890>「それは言の中心」

 うれしい光のさきに、私はひとりで手を振っていた。

 踏みしめて、今再びの色(イロ)を嗅ぐ。私の名前は風に揺れていた。

 一歩の音(おと)に気づかない しかし私は一歩以外ではあり得ないから、その静かな音(おと)の、おそらくは惑いの伴走者になる。

 目(め)、と、彼方。包むもの。私が動いてゆく。私が、見えない一枚に向けて手を近づけてゆく。すると、声は軽やかだ。声は黄色くとびはねる。

 行方を見たもの。誰かが息をおそろしい形相で吹き出すとき、瞬間のなまものに直に手を触れるとき、それにもかかわらず私は立って待っていることが出来る。私は音(おと)がいちいち速さを求めているのを知る。

 丁寧な、それはそれは言(こと)の中心。しかし、

  中心のない

 それは、言(こと)のなりゆき。言(こと)の自然。私は呆然だ、呆然の姿がいくらかおかしくなってくるぐらいに。

 ふたりはそれで、おそろしいものの正体の、なまのただなんということのない小ささを知る。膨張した身振りのなかへ私がすっぽりと、はまっていたことを「知る」(そう、知る)こと、それはまたとない安心感となる。

 そばで寝ている、と、いつも。手のひらが徐々に温度を取り戻した‐ト‐して、それは、綺麗な横顔。私がぼんやりとあのまるい光のなかで音(おと)のないひとつぶを放り出すとき、それは笑う。

 感情線のなかに軽やかの笑みの混ざること・・・に、ためいき。

<889>「私は宇宙の次に来る」

 嬉(キ)、嬉(キ)、嬉(キ)。九(ク)、九(ク)、九(ク)。

 鳥の目を少ししたあなたは、私の言葉をいつもより少なく数えている。

 嬉(キ)、嬉(キ)、嬉(キ)。嬉(キ)、嬉(キ)、嬉(キ)。

 絢爛な衣装の下(した)に、あなたが言(こと)を差し伸べる、その仕方! 私はいつまでも宇宙の次にくる。

 とおせんぼゥ、と、ひとり。過去‐わたしがひらく。わたしの口のなかへ記憶は列をなし怒涛のように押し寄せる。ああ、わたしが発音を曜日ごとに変える、するとテンポは目覚める。遠くで沸き上がる水の他愛ないお喋り、揺れただよう、とおせんぼゥは遥か彼方へ!

 嬉(キ)、嬉(キ)。嬉(キ)嬉(キ)嬉(キ)嬉(キ)嬉(キ)。

 遠のいてゆくしわざの、あくまで忍び込んだ一秒に、きっと私は招待されており、祝福は鐘(かね)と鐘(かね)とのあいだに一種、戸惑いを見せる。

 音(おと)的な性格形成(あるいはリズムの生成)の全てに、私は奇妙なためらいを残し、なおも音(おと)は列をなすだろう。あの遠くの、得体の知れない私の耳に、いつか届かせるために!

 順序を笑ってくれ! 私は快晴の挨拶に対する返答を知らない。まず歩行が、明らかなまでに歩行が、私の全風景を構成している・・・(冷や汗をかけばいいのだろうか・・・)。

 とんだ語らいが私に触れたものだ。私は指の感触的であることをやめない・・・と、緑色の文字が途方もなく吹き出してくる。

「一体、誰がこんなところへ浴びるんです?」

 浴びるんじゃない、私は既に言(こと)のなかへくるまれたことを知ればよい。