<608>「出る事の単純さ(時計には声がなかった)」

 方々から声が聞こえた。素気なさだけが、私を訪ねてくれ。ああ、装飾が、しつこく邪魔をしなければ。

 お前にだって考えはあり、お前にだって段階はあり、ともあれそれら全部が無表情と関係を結び、お前それはまた誤解を招くんじゃないの、なるほどそれに動くことには意味がない。

 時計には声がなかった。いくらも分けねばならぬ。断乎として分けねばならぬ、と言うが、きっかけはドロッとして、変化は見せない。誰かここに禁止を、禁止を分けてくれないか。表情は切実を取りそうで取らず、傾きそうで、ゆかぬ。

 現れ出るものだけで、この瞬間だけで、ありとあらゆる可能性の方向に視線を伸ばしてゆく。良い意味でも、おそらく悪い意味でも裏切られ続けるこの運動はまた、懲りずに笑いに協力し、訴えたことなどないから耳を傾けてくれるな、声を聞いてくれるな、と言っている。

 出ることの単純さ、出る事の素朴さ。ゴタゴタを捨てていくと、初めから何の問題でもなかったという合唱が始まる。歌うことで出ろよ。おとといおのれの不具合を連れてゆく。ああまた弾け、開いてゆくこともあるだろうと感じているよ。