<606>「見えない道を掬って」

 もう思い出せないもの。結局、私と関係があるようには見えなかったもの。ひとつ、歩んでいくその音を聴かせてくれないか。誰笑う訳でもないが、苛立たしい、疑わしい、混乱もまた、予定通りに投げてくれるならば良い。

 これは屹立、しかし勇気ではない。これは屹立、しかし、勇気などではなく、この場所はこの場所らしくあるべきだという考えや、意識の喪失、一日ごとに増える疑問などの結果が、大袈裟に口を開いているのだ。

 窮屈なら、その穴にだけ感慨を注がないでいようか。迷いも諦めも、何かを喋った試しがなく、これはあなたのほうがより分かるのではないか、などという思いつきと、ふたりの意識。僅かでも掬ってどうにか運ぶなら、私にも分からない、と、最初に言っておく用意がある。