<325>「死んだように眠る」

 休憩が必要だ。なに、10分も20分もあれば足りるだろう。車両の風に煽られ、放心した呼吸どのの重さは、想像に余りあるが、何しろもうこれで、座って電車をやり過ごすのは三度目なのだから。懐かしい想いや景色が緩やかに右巻きに漂い、漏れ、辿り、前進する。

 眠りの掴まれ方が緊張感を高めてくれたのだが、お礼は誰に言わなければならないのかというと、それは私に訊かれても分からないのだ。尤も、ガタゴトとその一音ごとにイライラさせられることに変わりはなかったのだがそれも怒っている訳ではない、断じてない。そこの駅には休むところがない。いいだろう、立ったまま寝ている人たちの群れを鮮やかに、また面倒に描きつつ、改札を出るまでの一瞬をやけにフワフワとした気持ちでやり過ごすのだから。