溶け出していく

 ある人の、若かりし頃の日記と、ある人の、若かりし頃の映像が重なる。その重なりがもたらす風景は、非常に整然としている。パチ、パチ、パチと、決まるべきところできちんと決まっている。分かりやすい、気持ちいい。しかし、どうだろう。何となく固い、硬質な印象を受ける。

 それが、どうだろう。あの日記は、書く人が歳を重ねるにつれ、どろどろと溶け出していくようになった。あの人の語らいは、カチリ、カチリとした様相を失って、まるで酔っ払いのようになった。分かりにくい、気持ち悪い(怖い)。思わず眉をしかめる。しかし、何故だろう。末端までよく染み込んでゆくのを感ずる。柔らかい、冷たい、あたたかい・・・。そこには、グニャグニャとした、原初の風景が見えていた。