円を描いている

 私より遥か前を歩いていると思っていた人が、今は私の後ろを歩いているように見える。

 私より遥かに後ろの方を歩いていると思っていた人が、今は私より遥かに前を歩いているようにも見える。

 おそらく、私たちは皆、同じ場所で同じような円を描いているのではなかろうか。どちらが速くて、どちらがゆっくりなのかは分からない。速く回ったからといってどこか遠くにいける訳ではなし、ゆっくりだからといって何処にもいけない訳でもない。

 前とか後ろとかいう考えも、円の上では無意味だ。あそこにいる人を前とするか後ろとするか、そんなものは人間の判断でしかない。始まりもなければ終わりもない。

 そこに私は、ただただ円形の足跡を残すだけである。