誰もがそれを考えては止め、考えては止め、としているかもしれない。私はつまるところ今また、考えるタイミングに入っている。
そりゃ肉体だろうと。しかし肉体は肉体で、何ヶ月か経てば(何か月だったか忘れてしまったが)、元の肉体を形成していたものは完全に新しい肉体と入れ替わっていると言う。では、肉体がその人を同一人たらしめている訳ではなさそうか。
精神か。同一人だと錯覚させている記憶力に拠るのか。しかし、仮に当人が呆けてしまって記憶もない、あるいは植物状態のようになって精神もない、というような状況になっても、他者は途端にその人を見失うことはなく、ちゃんと同一人と認識することが可能だ。では精神でも記憶でもなさそうか。
その人がその人たり得ること、同一人たらしめている根拠に精神も肉体も記憶力も据えられないとしたら、一体、私を私たらしめている、他者を同じ他者たらしめている根拠はどこにあるのだろう? 完全に別人なのだろうか。いや、完全に別人ではないはずだ。確実に、昔の私と今の私は歴史的な繋がりがあるという感覚はある。しかしそれが何の根拠に基づくのかを言うことが出来ない。