愛が分からなかったあの人は、それでも、それならと、目一杯、状況を整えるために苦心してくれた。私が何の不足も感じないよう、精一杯の環境を整えてくれていた。
それなのに、私の顔には不満の色が浮かんでいた。困惑の色もまた。
「何が不満なの?」
あの人は私に、そう訊ねる。しかし、私にも何が不満なのか、どうして困惑しているのかが分からない。何の不満もないはずなのだ。
ただ、分からないながらも、お互いに、何かが欠落しているような感覚を覚えていただろう。
愛が分からない私は、この人だと思う素敵な人が何の不足も感じないよう、決していやな思いをしないよう、状況を整えることに苦心した。これ以上ないと思われるような、文句のつけようがない、完璧なサポートを、そこに体現させたつもりだった。
「・・・何が不満なの?」
しかし、そう訊ねた私の前でその人は、不満とも困惑ともつかぬ、曖昧な表情を浮かべていた。
何が不満なのと声をかけながら、私は、自身に何が足りないかをはっきりと自覚していた。ただ、それをここに体現させることが出来ない。元々私の中にそれは存在しないからだ。