<706>「貼られた映像に」

 どこの場所から顔が現れても不可思議ではないように。どこに暮らすやら考えだけで引きずり回してしまわないように、祈っている、つもり、複雑な向かい合い。割れ、日々は割れ、瞬間には瞬間の言い分があった。渡すだに新しい独特な熱があった。

「今でも憶えているでしょうか?」

 果たして、夢を、いつもの通りに辿って、これは場面の貼り合わせではないと感じる。誰が暮らしたか、音の無装飾な、色のよそよそしさのなか、呼吸さえ無用な、ひび割れの移ろいに付き合ううち、芽生える、必要のないものだけで咲いていて、目の前で揺れる、数だけでも数えていると、いくつかのうち、適当な腕が適当に伸びて襟首を摑む、と、一体、どこからどこまで引き戻されればよいのかが分からなくなって、微笑みから、渋い表情までで、ふたたびのまどろみのなかへ、向かい備えてみる・・・。

<705>「嘘のなかに夜がひろがる」

 明確に、避ける人、ならまだ、名前で呼んで、ふたつの目が、ジリ、ジリと音を立て、中央に寄る、徒に見る。はだけて、今までと、かなたへのふくらみ、過去いくつものうごめきその通りに、その通りに流れてくると請け合った、ところと、どころ、の人、たち、当然言葉ごと転がる。

 膨らみかけ、モチーフ、いつもの通り。

「誰がモチーフだ」

訳あって、なにげに、帰らせていただく、普段のうつろい普段の話、舞台で寝そべるだけなの不可解であらとまたがり、いくつものはためきに、わたくしはふたり、いくつものきらびやかさに、わたくしはうねる、不気味な音さえ鳴るように、いくらでもひねる、と、嘘には夜空が、特別な低さで広がっている。

 ほんの揺れが、ただオオゴトになって笑い転げなければならない。ほんものの揺れは、嘘より速いから、多少なりとも、口を開けて、なごやかに、地面に垂らしていかなければならない、嘘はまだ、適当な姿で眠っているから。明らかであると同時に、表情で、増えてゆく、ところどころ、語らないで。

<704>「無数の点の応え」

 外側に現れて来たと言うべきか、外側だけで反応していると言うべきか。それこそ無数の反応、嘘みたいな落ち着きと裏表になったいくつもの反応が、各々、湧き上がる場所を確かめている。

 いや、それはもう場所である。入れ替わる隙を常にうかがっていたのだ。しかし、急だから驚いて、精一杯イヤイヤをしたようにも思える。妥協は点で固まる、点はにじむ、点は色を持つ。見受けられるあれこれ、あちらこちら、で、静か、

「こんなことで、起こそうと望む者ではない」

 いつもムキに呼吸になっている。絶え間なくこぼれてゆくのを防ぎ止めるため、痛々しさとともに点になる、点は増す。見た通りの悪さであったり、良い、その経過であったりする。動揺は遅れている。とうに過ぎている。

<703>「粘る回転」

 方向はそれで合っていても、突然過ぎて驚くこともあるのかもしれない。ひとつ足りなかったのでなくて、充分な上での荒れ方だったのかもしれない。疲れている人がポツンとそこにいたとする、しかし、この疲れは動き回る事で解消されるものかもしれないから厄介だ。何かいたずら心なのかと、こうべを垂れて考えているものと、荒れ狂っているものとは一(いつ)なので、余計に走り回りたくなっている。妙な不具合だ。何を、と力を込めるのでなし、それが当たり前であるかのように、ス、ススと通ってゆくから、あるいは私が見捨てたのであり、私は見捨てたのであり、全てがなくなったあとでもひとりまた、まだ諦めていないのも事実なのだ。

 仕方なかったとも言わず、誰がこんなことしてくれたのだとも言わず、

「う~ん、何だ? さあ、う~ん」

と粘って、粘って、粘ってゆく。何の為なのかがエンジンなのだと言われても、ピンと来ず、いりいりいりいり回転してゆくと、いつ始まったのかも分からないし、いつ終わるのかも分からなくなる。

  いや、私は、始まりとか終わりとかの話をしたくないのかもしれない・・・

<702>「誰の指だ」

 特別な事、陽気な事、収まらない事で、低うなり低うなり、普通に話す、歌われて、不都合な偶然に丁寧に寝そべっている、はず。そして、よろしげに、誰か案内して(たれかあないして)、どこから、どう見ても、震わせ、なぞ見ても、集まり、かたわらに立たせ、まさかね。

  あとからあとから隠さることとて色がない・・・

 よろしい、しかし、何に対して。あざむき、ひきつり、照れ、はむかい、こわばり、おそれ、などなどに対して、いつも以上に、余計に、意味を捉えて、何度も巡らす。どこから集めればいいのか、どこへまとまっていいのかが分からぬほどに、ひっくり返して、ただぼんやり眺めているだけでじゅんぐりじゅんぐり、挨拶がてらみたいで、全部の照らし、あまねく明滅が、肝心の場面だけに触れる。

  誰の指だ。誰が指だ。ひとつだにさされやしない・・・

 内側よ、共感しろよ。ノーモーションで断って、横向いて、いつ使うのかが分からないことを考えている。あれば何故か触れて失せて替えをここへなどともの言い、ふざけた面ぁが堂々と風に乗っている、何を失くしたかは知らない。

<701>「濁り重り」

 大事かどうかも構わず隠れて、訊ねられて、慌てている、わけも分からず。どのように不明、どのように不透明、直接歩くときだけに、濁りが晴れて、重りも跳ねて、

「もう動けない」

という笑顔。裾もなし、声もなしで、よそからよそへ向かうもの、うろたえているなかで、呼吸はひどく新しい。何事にも新しさが必要だと言われているが、そんなに新しいという理由で見るか、さわってゆくか。

  とにかくも、それは人々の目から隠れてゆくように見えたから

 いけない、ここでは難しい顔をして通らなければならない。私にとって、何が難しいのかが明確でなくとも。その難しさは、過ぎるたびに期待され直す。

「さあさあ」

と言わんばかり。例えば難しい顔の代わりに悲しい顔などを披露してごらんよ、次々に口元が抗議に見えてくる。逆さまになってこの穴を仰ぐと、怖ろしさなぞいうものはどこかへ退き、ただの滑稽さと正確な発音とが入れ違いに現れてくるのだ。

<700>「熱狂する眼のなかに」

 お前よりあなた、熱狂を拒否する目で、物事の間に沈んでいっては、新しい素振り、新しい朝。例えば、全然眩しくないのに、ゆっくりと移ろってみるなどし、確かめて親しげに、きっと、嬉しいのか否かで立てる音が少しずつ変化する、という意味も込めて、澄まし顔。

「どうしよう」

再び怖れに似た体力を呼び覚まして、向くよきまぐれ、足先、ただならぬ深さに似て、たくましい。

 分かち合うより早く、それも、乾かし、どうかしないだけで立派なもんだと連なる日々、例えば一秒一秒。混ぜた上で、何度も何度も一番上へ浮き上がってくるのだから、それを掬って、場面ごとの言葉にふくませていく、思ったより軽く、そして聞いてない、何故か、愉快だけが進んでく、どれだけか訊ねず、どこまでかも決めず。

 戻ってくる、と考えて、結局次々新しいところへ移るのだったが、それはそれなのあんまり場所から変わっていなかった。突然取り戻した? ううん、なんにも取り戻していない。誰のために同じような顔、でいつまでもあるのか、それは、戻ってこれないから、そのようにした、として納得するまでの話である。やけに増えて順番を適当にひっくり返してゆくと、ほら、彼は幾枚も幾枚もの重なりのなかにあって、親しく手を握っているのが見えている。

  その点僅かに赤らめてふやけていくところ待たない