控室
質問者:すると、あなたは誰ですか?
A:随分とざっくりしていますね。しかし、ひょっとするとそれが答えかもしれませんよ? 私は「あなたは誰ですか?」と訊かれている者です。
質問者:ヤだな、からかっちゃいけませんよ。
有りや無きか
A:僕はねえ、「これは何かであるぞ、何かであり得るぞ」ってところから出発したんだ。
B:なるほど。
A:しかしねェ、進んでいくうち、「これは一体何だったのだろうか? こんなものは一体全体何にもならないじゃないか」というところへどうしても辿り着いてしまうような気がしたんだ。
B:なるほどね。私は逆の辿り方をするよ。
A:逆の?
B:うん。「こんなものは一体全体どうしたって何にもならない」というところから出発したんだ。
A:なるほど。
B:でも、逆と言ったけど、そこから、「これは何かであるぞ、何かであり得るぞ」というところへ辿り着かなくても良いんだ。
A:ほう。
B:むしろ、辿り着かない方が良い。
A:と言うのは?
B:うん。そこへ辿り着くと、また有→無のリズムが始まるからね。
A:そうか。
B:なるべく、無から始まったものが、いつまでもいつまでも無を繰り返しているのが理想だ。
A:なるほどね。しかし、不思議なもんだね。繰り返していると、勝手に有に見えてきたりするね。
B:それが厄介なんだ。
A:もしくは、有を見つけ出そうと必死なのか、そういうように、見つけるように作られているのか。
B:いずれにしろ、そこが難しいところなんだ。
A:僕たちはそれでも、「そんだけ無が繰り返されていりゃ、どっかで有になるはずさ」と思っている節があるね。
B:あなたの言う通りだね。
A:どこかに無が、完全な無があったはずなんだ、という話は、僕たちが有であるということを前提にして話されているね。
B:そうだね。
A:そして、僕たちは、無が重なっている、それも大量に重なっていると、そこには有があるんじゃないのかと思い始める節がある・・・。
B:つまり。
A:僕たちを、有、として捉えることに疑問の目が向けられなければならない。
B:無の、それはそれはおびただしい重なり・・・。
A:そこに有を見ているだけ、だから、最初(ハナ)っから有なんてどこにもないとしたら・・・。
B:無だったものが一体どうやって有になったんだい? なんてな疑問はおかしいことになる。
A:どこまでいっても無でしかあり得なかったものが、おびただしく重なってしまった結果、人の目には、どう見たって有でしかあり得ないもののように映っている。
B:辞書が言葉の入れ替えでしかなくなるのは当たり前のことだ。
A:無が重なっているだけ・・・。
B:そうすると、無から始まったものが延々に重なっているだけに過ぎない、ということを肌身で感じるのに一番適している仕事もとい作業はこれしかないのかもしれないね。
A:僕もそんな気がしてきたよ。
B:無→有は、事実というより、どちらかというと願望に近い、いや、完璧な願望なのかもしれない。
A:物事をこまぁく、こまぁく見てゆくと、どうも皆スカスカだというのも。
B:そういうことかもね。