<394>「距離と幻想」

 存在という存在が稀薄な世界で、あまりそちらばかりで遊んでいてはいけないよ、と言う。しかし、現実がまた、私にとって同じぐらいの稀薄さだったら。そことここに、差という程の差を見留められなかったのなら・・・。

 先程までの運動は、もう自分のものではないが(今この瞬間だったら、自分のものだとでも言うのだろうか)、それは、何も現実の時間だけに限られたことではない。何かを沢山抱え込もうとしたって、抱えたそばからスルスルとこぼれていってしまうし、最初から何も掴んでいなかったと考えた方がいくらか確からしい。

 こんなことは大したことではないのだよ。なに、大したことだと思うのは、まだあなたがやってみていないからさ。変な幻想を抱いている。それで、大したことではないからっていうんで、やめて帰っちゃうのかい? それは別に自由だが、身体がある、ともかくあるということに理由はないのだし、動いていかざるを、得ないじゃないかまた、動いていかざるを得ないというのは、そう嫌なことばかりでもないのじゃないか。何か、自分と思いきや自分とは離れたところにある運動、現実とは離れたところにある運動だというのはよく分かるが、しかし、何とか掴もうとする現実そのものだってまた、同じように遠いのだよ。距離感があるのはおんなじだ。