<229>「地面は薄氷だから」

 地面は薄氷なんだ。歩いている感じに拠る理解としてはそんなところだ。ところが、これがなかなか割れないから、自分が歩いているこの地面は薄氷でも何でもないのじゃないかと思わずにはいられなくなる、というより、誘惑に引きずられるという感じもないままに自然にそんな考えを身につける(もしかしたらそのことにも気づいていないかもしれない・・・)。しかし、固い地面だと確信したその足下で、本人には聞こえないくらいの小さな音で氷がピキピキ鳴ったのを知っている。踏み出している場所があともう少し右にズレていたら、そのままバリバリと行ってしまうところだったのを知っている。

 薄氷は薄氷であるという理解、それは特別なことでも何でもないが、ただ、歩き方は変わらざるを得ない。どう歩くのか。本当は、そんなことを意識しない方が上手く歩けるのかもしれない。しかし、明らかに見えているところを違うものと思う訳にはいかない。慎重にズルズルと滑るように運ぶ足下で氷がひび割れを起こすのを見て穏やかに笑うぐらいにはなっているのかもしれない。もう少し寒い方が好い。