誰だかは知らない。初めて会ったのは階段だった。
「おはようございます」
挨拶を交わすと、その人はしばらく含み笑いをしていた。馬鹿にしているようでも、おかしさをこらえているようでもなかった。
その後も何度か、その人とは階段で会った。含み笑いの前後に、休憩として挨拶を挟んでいるかのような表情の一貫ぶりだった。
そんな人のことをこの頃ぼんやりと考えていて、そういえば最近は会わないなと思っていたところ、エレベーターのドアが開いた先に立っていたのは、あの含み笑いする顔だった。
「おはようございます」
というやり取り以外、相変わらず含み笑いの姿勢を崩すことがなかった。
「何であの人はいつも含み笑いしているのだろう・・・」
と、思わせない自然さがある、それが不思議だ。含み笑いを絶やさないなんて不自然じゃないか、と感じさせる何ものかがない。変な人だ。