あるところ、足の痛みで悩む人あり。曰く、平素の道がさながら針山の如しと。
またあるところ、腕の痛みで悩む人あり。曰く、湯呑みがさながら大岩の如しと。
足の痛む人、腕の痛む人を笑いて曰く、
「たかが湯呑みで岩とは何ぞ」
と。
また、腕の痛む人、足の痛む人を笑いて曰く、
「針山の如し道なぞ、いまだかつて出会わざるなり」
と。
されば、各々が痛みを交換せんとし、足の痛みはあちら、腕の痛みはこちらへ。腕の痛みはあちら、足の痛みはこちらへと。
果たして両者、交換するや否やで各々が言の意味を知り、激しく悔いて頭を痛め出す。腕足の痛みはいつとも知らずに去りにけり。