それだけ驚いた

 1カ月寝続けた。と朧気な頭で感じていた。時計を見る。5時30分。眠りに入るとき、確か3時45分だったから、実際には1時間45分しか眠っていないということだ。おかしい。日付が違っているのではないか。いや、確かに同じ日付だ。

 では、どうしてそこに1カ月もの隔たりを感じたのだろうか。思い当たる節はと言えば、眠る直前まで延々本を読んでいたことだけだ。著者と私の間とで確実に同じ音が鳴っていて、しかしその一方で何度も視点を変えさせられ、驚かされるという本に出会うと、例外なく読書は止まらなくなる。その為に、朝早く起きなければならないことを知っていながら、それは深夜の3時45分まで及んだのであろう。

 そこから、それだけの驚きを抱えて眠りに突入したのだから、眠りの方でそれを受け容れるのに、いつもより以上の働きが必要だったことは間違いない。実際に1カ月寝ていた訳ではないが、1カ月分ぐらいの驚きを処理していたので、それぐらい寝ていたように錯覚するのも無理はなかったのかもしれない。