無意識だから

 記憶を喚起するときなど、意識とか判断とかいったものが随分邪魔をしているような感じがする。本当はもう実体を掴めているのに、意識だとか判断だとかがそこへわざわざ出張ってきて、

「あれって何だっけ?」

とやることによって、却って思いだすのが遅くなったりしているように思う。

 無意識というのは優秀だ。意識が、

「今上っていること」

しか捉えられないのとは対照的に、無意識というものが常に把握している範囲というのはものすごく広い。夢などを見ていると、意識にはここのところ一度も上ってきていなかったものが、あっさりとそこに出てきたりしていて、驚くことが多い。

 たまに、記憶を失うほど酔っぱらった人が、

「無意識だったのに真っすぐ家へ帰れた」

などと言っていることがあるが、それは無意識の能力というものを軽視し過ぎだと思う。

 下手に、フワフワとした意識で家に戻ろうとするよりも、無意識の状態で家に戻ろうとする方がよっぽど正確に、迅速に、真っすぐに家へと向かえるだろう。

「無意識だから」

酩酊状態でも真っすぐに帰れたのだ。