年齢に抗って形成された美は、美しくない

 「美魔女」という言葉をいつからか見かけるようになってきました。正確な定義は分かりませんが、いわゆる中年期の女性が、まるで若い女性のような外面の美しさを保っていることを指して、そう呼ぶのだろうと捉えています。

 しかし、世の中の人がどう思っているかは分かりませんが、「美魔女」としてメディアなどに登場してくる人物を見ても、私は「美しい」とは感じません。勿論、外面の綺麗さは見事なものでありますが、どうも実際の年齢と、外面の装いがちぐはぐに見えて、「美しい」というものからは程遠いところにあるように感じるのです。

 仏教に「生老病死」という言葉があります。この四つは、避けることのできない根源的な苦しみであると考えられています。

 これを今回の場合に照らせば、「老」。つまり、老いてゆくということは避けられないものであるのに、それを受け容れずに、意図的に遠ざけようとする営みの結果として、「美魔女」があるのではないかと思います。これは人それぞれ価値観が異なるのを承知で言いますが、私は、「老い」を受け容れずに意図的に遠ざけて、齢に抗う形で達成される「美魔女」というあり方は、それはそれは見苦しいものであると考えています(若くありたいと願う気持ちは分かりますが)。それよりもむしろ、中年期の女性が、自らが中年期であるということを受け容れた上で、現れ出てくる「美」の方が、格段に「美しい」と思っています。

  自らの年齢を、老いを受け容れ、その上で現れてくる「美」というのは、若い女性には無い、一種独特の趣を醸し出していて、さらに奥行きまで感じさせる、それはそれは貴重な、得難い「美しさ」なのです。それなのに、わざわざ年齢に、老いに抗って美を形成するのは非常に勿体ないとさえ思います。