<4307>「所感(529)」

 欲望とはこうあるもの、という声を無限に聞いてきた。

 

 欲望とはこうあるべき、という声も幾度も聞いてきた。

 

 自分の欲望が何なのか、その輪郭すら掴めなかった頃は、そういう一般則的な、欲望の形を信じた。

 

 私もなんとかその欲望に沿ってみようと考えた。

 

 しかし、段々に気がつきはじめる。

 

 これは、俺の欲望ではない。

 

 それは、親の願いであり。

 

 友達の期待であり。

 

 知り合った人の思い込みであった。

 

 俺の欲望はそこにはない。

 

 俺の生は、そこにはない。

 

 俺の欲望には嘘がなく、目を背けたくなるものも多い。

 

 だが、そういう、1番暗い、底の底の欲望まで包含して、私自体が十全に表現されるのでなければ。

 

 私は何を生きたらいいのかが分からなくなる。

 

 私は自分の欲望の声を聞く。

 

 この不穏な時間は、しかしとても静かだ。