<3760>「所感(270)」

 山の頂上に辿り着いた気持ち良さ、何にも代えがたい清々しさと。

 

 山の頂上に着いたからって別にどうってことはないな、頂上に着いたからってそれが何なのだろう、という気分と。

 

 この全く別のふたつのものを、時間経過を待たずに同時に抱えられるのが人間だよな、って感じがする。

 

 

 一日生きればまた一歩先へ進む。

 

 それは嬉しい。

 

 一日生きればまた一歩先へ進む。

 

 それが何なのだろう。

 

 私は、このポジティブな感慨にもネガティブな感想にも与しないでいたい。

 

 どこにだって辿り着ける、という感覚と、どこまで遠くへ進んでも、「ここ」からは出られないという感覚と、その両方とともに生きたい。

 

 人間は消え去る。

 

 消え去られることはどこまでも苦しく。

 

 消え去ってしまうことによって初めてほっと息が出来る。ゆっくり呼吸が出来る。

 

 私は生きるに際し何かを頼り。

 

 私は生きるに際し何かを背負わされている。

 

 何かを掴んでいるときの軽さ。

 

 何かを掴まされているときの重さ。

 

 その両方が私という人間の現象を作る。