「○○さんは、上手く馴染んでいるから・・・」
辞める決心がついていたその人は、私に向かってそうつぶやいた。
たしかに、私はここで馴染めていない訳ではなかった。先輩方にも非常に良くしてもらっている。
ただ、私には、辞めていくその人の方が、ここに上手く馴染んでいるように見えていた。会話の輪の中にも自然に入っていっていたし、楽しそうな笑顔も良く見受けられた。たいして私は、そこまで積極的に入っていく訳ではなかったので、
「まだ日が浅いのに、あれだけ馴染めていて凄いなあ・・・」
と、素直にその人のことを見て感心していたぐらいのものなのだ。
しかし、どうやらその人は、どうしようもない馴染めなさをここで感じていたようだ。振りまかれていた笑顔や愛嬌は、その人なりに一杯一杯のものであったのかもしれない。
表面では馴染んでいるように見えていても、実際のところはどうだか分からない。また、きっと私の表面には馴染み切れなさが浮かんでいるだろうと思っていたのだが、辞めていくその人が私を見るには、私は上手く馴染んでいるように見えていたというのだから不思議なものだ。
これから先、私がその人に出来ることは何もないが、その人が、表面だけではなく、心から馴染める場所を見つけられることを願っている。本当にお疲れさまでした。