どっちも不気味だよ

 ただなんとなくぶらぶらと街を歩いている。1人の女性とすれ違う。その女性は、思い出し笑いを必死に抑えながら、私の横を通り過ぎていった。

 その女性が通り過ぎて行ったあと、私もつられて、思わず笑ってしまいそうになった。人目を憚り、急いで笑いを引っこめようとする。

 別に、女性が思い出し笑いを抑えていた姿を見て、笑いそうになってしまった訳ではない。そうではなく、ただその女性を見て、

「何かを思い出して、笑ってしまいそうになるんだけど、人目もあるから素直に笑いを出すわけにもいかず、必死で抑えることってあるよなあ・・・」

と、過去の自分の思い出し笑いの経験を、思い出して笑いそうになっていたのだ。

 しかしまあ、思い出し笑いをしている最中の当人というのは、大変愉快な思いをしているのであろうが、周りから見ると、ただただ不気味なものとして映ってしまうのが思い出し笑いというものである。その、必死に笑いを押し殺す姿というのがまた、不気味さを助長させているのも確かであろう。

 そうすると、思い出し笑いをするときは人目を憚って笑いを押し殺す、ということをしないほうが、不気味さは軽減されるのであろうか。

「ハハハッ、まったくもうあれ面白かったよなあ・・・」

と、素直に思い出し笑いを全面に出してしまった方が不気味ではなくなるのだろうか。

・・・いやいや、そんなことはない。堂々と笑っていたら、それはそれで充分不気味だ。もしかすると、思い出し笑いというものは、不気味さと密接不可分であるのかもしれない。