ある種の球団のようなもの

 「日本の未来は~♪」

小学校の給食の時間。校内放送からは軽快な音楽が流れてきている。当時、世間で大ヒットしていた曲が聞こえてきたことで、クラスメイト達が各々歓声を上げるなか、私ひとりは、ついていけずにポカンとしていた。

 何を隠そう、その頃の私は、

松井秀喜

ただひとりに完全に夢中になっており、流行の音楽などは全く知らなかったのだ。

 依然として、私がポカンとした表情を崩さないでいると、近くにいたクラスメイトが、

「まさか・・・知らないの?」

と声をかけてきた。

「ちょっと・・・分からないかな・・・」

と私が返すと、

「ええー、何で知らないの? 知らないなんて恥ずかしいよ」

と言い返されてしまった。

 今の私であれば、そんなことを言われようが全く気にも留めないのだが、その当時の私は、知らないと恥ずかしいよと言われたことに大変なショックを覚え、家に帰ってから、必死になってそのグループのことを憶えたのだった。

 案外に、覚えることそれ自体は簡単であったが、その頃は、メンバーの名前全員分を言えるのが当たり前というような状況であったから、一生懸命憶えたとしてもそれは何の自慢にもならなかった。

 それから、ある程度年月が経った頃、クラスメイトの一人が、

「ねえねえ、あのグループのメンバーの名前、全員言える?」

と私にふっかけてきた。ついに、得意げになって披露する機会が訪れたかと思った私は、嬉々としてメンバーの名前を次々に繰り出した。

 しかし、クラスメイトから返ってきた反応は、

「え?何で全員の名前言えるの?こわい・・・」

というものだった。ここでまたまた私は大変なショックを受けた。ついこの間まで、知らないと恥ずかしいとされていたはずのことが、今度はあっという間に、

「知っているのはおかしい」

というように評価が変わってしまっていた。流行の移り変わりというものはおそろしい。

 そんな小学生時代から、幾年もの時が過ぎている。あのとき、私に向かって、

「知らないなんて恥ずかしいよ」

と言ったクラスメイトは、今そのグループが、ある種の球団のようにメンバーを入れ替えたちかえながら存続し、今度また、4人の新たなメンバーを迎え入れたばかりだということを知っているだろうか。そんなことも知らないなんて恥ずかし・・・いとは言い切れないか・・・。