荷物良し。財布も良し。上着も良・・・、これじゃあ、ちょっと暑いだろうか。ベランダに出て気温を確かめよう。ちょうど、天気のことも気になっていたところだし。
・・・うん、上着はこれで大丈夫。雨も降っていない。よし、出かけよう。
(雨の匂いがする。傘を持って出た方が良いぞ)
・・・まあ大丈夫だ。この調子なら、まだしばらくは降らないだろう。玄関に向かう。
(手間だろうけど、傘を持って行った方が良いぞ。ほら、そこの戸棚を開けて)
そうなのだ。持っていけば万全なのは分かるが、幾らか手間だ。雨の匂いがするって言ったって・・・、まあ確かに匂いは強くなっているけれど、降られずに目的地まで行けるだろう。玄関を出て、外の階段を下りる。
(悪い事は言わない。傘を取りに戻った方が良い)
大丈夫大丈夫。心配ない。
(もう薄々感づいているのだろう?あと数分で降りだすぞ。今戻った方が楽だ)
大丈夫。なんとかなる。ほら、外に出たけど、まだ雨には降られない。この、降りそうで降らない状態がしばらく続くだろう・・・。
・・・玄関に備え付けの戸棚から、傘を取りだす。分かっちゃいたが、しかし外に出て、たった三歩のところで雨粒に当たることになるとは・・・。仕方がないから玄関まで戻ってきてしまった。嫌な予感に従っていれば、普段より余計に階段を上り下りすることもなかったのに・・・。
(傘を持って行った方が良い。雨の匂いがするぞ)
分かってる。今日は、この前のような失態は演じない。玄関の戸棚から傘を取りだし、準備万端で外に出る。よし雨よ、いつでも来い。
・・・その日の雨雲は、早々に消えてなくなった。
(今日も、傘を持って行った方が良・・・)
知ったこっちゃない。大丈夫だ。(カバンに折り畳み傘入れておけば良いじゃない・・・)